IR情報の一覧・まとめサイトは使えるか——公式の横断一覧がない理由
「IR情報サイト」「IR情報まとめ」で探すと、年収ランキングや企業比較の一覧が大量に出てくる。便利だが、就活で使うには前提を知っておく必要がある。企業横断でIR情報を一覧にした公式サイトは存在せず、出回っている一覧はすべて誰かが手作業で集めたものだ。この記事では、公式の一覧がない理由と、まとめサイトの2つの落とし穴、そして自分で比較表を作る手順を示す。
企業横断の公式一覧は存在しない
EDINETは企業ごと・書類ごとの検索システムで、「全上場企業の平均年間給与を一覧で出す」という機能はない。TDnetも日付と企業単位の開示一覧であって、項目を横断で並べる仕組みではない。
理由は単純で、法定開示は「その企業について正確に開示させる」ための制度であり、企業を比較させるための制度ではないからだ。書式は統一されているが、数字を横に並べる作業は利用者側に委ねられている。
だから世の中に出回っている年収ランキングや業界比較の一覧は、すべて誰かが有報を1社ずつ開いて手で集めたものだ。それ自体は価値のある仕事だが、集めた人の解釈と、集めた時点が必ず入っている。
落とし穴①——持株会社の数字がそのまま流通している
有価証券報告書を提出しているのは上場している会社だ。持株会社(ホールディングス)が上場している場合、有報の「従業員の状況」に載るのは持株会社の従業員、つまり数十人から数百人の管理部門と役員の平均になる。実際に多くの社員が働く事業会社の水準とは、まったく別の数字だ。
たとえばゲーム業界では、持株会社の平均年間給与が1,315万1,000円(従業員26人)である一方、同じ有報に載る事業会社は782万6,000円(3,235人)という例がある。その差は532万円だ。ネットで流通している「平均年収1,300万円」は26人の平均で、開発現場の実感からは遠い。
航空業界にも同じ構造がある。持株会社は従業員286人で770万9,000円だが、事業会社どうしで比べると1,011万2,000円と1,172万1,000円になる。持株会社の数字だけを見ると、順位すら逆転する。
多くの有報には「最大人員会社の状況」という項目があり、グループで最も従業員が多い会社の数字が併記されている。金融のように事業会社が非上場の業界でも、この欄から実数が読める。まとめサイトの多くは、この欄を反映していない。

落とし穴②——更新が止まっている
上場廃止、経営統合、社名変更があっても、まとめサイトの表は古いまま残ることが多い。すでに上場していない会社が「上場企業ランキング」に載り続けている例は珍しくない。
面接で「その数字はいつ時点のものですか」と聞かれたときに答えられないと、調べた意味が薄れる。原典を一度開いておけば、何年何月期の有価証券報告書に基づくかを即答できる。
まとめサイトは当たりをつけるために使い、面接で口に出す数字はEDINETで確認する。この二段構えにしておけば、便利さと正確さの両方が取れる。
自分で比較表を作る——揃えるのは5項目
志望業界の3〜7社について、有価証券報告書から次の5項目を書き出す。これだけで、市販のランキングより信頼できる比較表になる。
①平均年間給与 ②従業員数(提出会社) ③平均年齢 ④平均勤続年数 ⑤連結従業員数。①〜④は「従業員の状況」の同じ表に並んでいるので、1社あたり数分で取れる。
重要なのは、②を連結従業員数と並べて見ることだ。提出会社の従業員が連結の1%しかいなければ、①の数字はグループ全体の実態を表していない。逆に提出会社が連結の半分を占めるなら、その数字は額面どおり読める。
そして単位を揃える。有報によって千円表記と円表記が混在し、平均勤続年数も「17年7か月」と「17.6年」のように表記が分かれる。並べる前に単位を統一しないと、順位が狂う。
決算期がずれる会社にも注意する。3月期決算が大半だが、1月期や12月期の会社が混ざると、比較している時点が数か月ずれる。
並べると何が見えるか
同じ業界で並べると、指標を変えるだけで順位が入れ替わることが分かる。平均年間給与で1位の会社が、1人あたり利益では3位ということが普通に起きる。どちらが正しいという話ではなく、その会社が何で稼いでいるかが違う。
平均年齢と勤続年数を並べると、若い集団で高い給与を出している会社が見つかる。同じ年収でも、37歳の平均なのか43歳の平均なのかで意味がまったく違う。
提出会社の従業員数を見ると、その会社の「本体」がどれだけ小さいかが分かる。連結で17万人を超えるのに提出会社は18人、という会社も実在する。
こうした比較は、1社ずつの企業研究をいくら積んでも出てこない。就活生の本当の問いが「どっちを受けるか」である以上、横に並べる作業には固有の価値がある。