「企業価値向上に貢献したい」——上場企業の志望動機で最も強い型

上場企業の志望動機には、面接官の受け取り方が変わる型がある。「貴社の〇〇に関心があり、◻︎◻︎を通じて企業価値向上に貢献したい」——埋めるのは2箇所だけだ。〇〇にはその会社が自分で公表している戦略や目標、◻︎◻︎には自分が提供できるものが入る。この記事では、なぜこの型が効くのかを約300社の有価証券報告書を数えた結果で示し、実際の会社で材料の取り方を実演する。

型:埋めるのは2箇所だけ

「貴社の〇〇に関心があり、◻︎◻︎を通じて企業価値向上に貢献したい」

〇〇に入れるのは、自分が考えた話ではない。その会社が自分の言葉で「これをやる」と公表している戦略・目標だ。どこに書いてあるかは後述するが、上場企業なら必ず存在する場所にある。

◻︎◻︎には、自分が提供できるもの——経験・強み・志望職種——を入れる。この2つが埋まると、志望動機は「会社の公式文書に書かれた事実」と「自分」の接続になる。感想文ではなくなる。

なぜ効くのか——「企業価値」は社内の言葉だから

この型の力は文の意味ではなく、言外に伝わるものにある。

学生の語彙から自然に出てくるのは「成長したい」「社会を良くしたい」だ。悪くはないが、それは会社の外側から見た言葉であり、会社の中で使われている言葉ではない。

「企業価値向上」は、経営会議と株主総会とIR資料で使われる言葉だ。面接官は上場企業の社員なので、この言葉が社内のどこで飛び交うかを知っている。学生の口からこれが出た瞬間、面接官には「この学生はうちのIR資料を読んでいる」という推測が走る。

「御社の有価証券報告書を読みました」と宣言する学生はたまにいる。だが言った瞬間、それは自己申告になる。この型は、自己申告せずに同じことを伝える。自己申告でないぶん強い。

実測:約300社の有報を数えた

主観ではなく、数えた結果を示す。上場企業約300社の有価証券報告書で、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の節に何が書かれているかを集計した。

100%にこの節が存在する。そのうち75.9%が節の中で「企業価値」という言葉を使っている。65.3%が「株主」に言及し、56.4%がROE(自己資本利益率)に言及。44.3%は企業価値とROEの両方を書いている。

4社に3社が、経営方針を語る場所で「企業価値」と書いている。理由は単純で、上場企業の経営者は株主に選ばれる立場だからだ。株主総会で選任議案に反対票が集まれば職を失う。だから資本効率と企業価値の話を常にしている。

補足として、「PBR1倍割れ」で知られるPBRを経営方針の節に書いている会社は4.5%しかなかった。有報で探すならROEのほうが早い。PBRの話は決算説明資料に出てくる。

材料の場所:「事業の状況」の1番目

〇〇に入れる材料は、有価証券報告書の「第2【事業の状況】」の「1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】」にある。約300社を読んだ限り、この節の番号がずれていた会社は1社もない。上場企業なら必ずここにある。

この節には、経営の基本方針、目標とする経営指標(ROEや利益目標の数値)、経営環境、そして対処すべき課題(=これからやると宣言していること)が、だいたいこの順で書いてある。

EDINETで有報のPDFを開き、目次から「事業の状況」に飛べば最初の節がこれだ。読むのはこの節だけでも、志望動機の材料としては足りる。

カプコンで実演する

カプコン(9697)の有報の該当節には、「毎期10%営業利益増益」という中期経営目標、「年間1億本」の販売目標、「240を超える国・地域」での販売網拡充が、会社自身の言葉で書かれている。ROE向上による企業価値の増大に努める、という文言もそのまま載っている。

これを型に入れると、たとえばこうなる。「貴社が有価証券報告書で掲げる『年間1億本の販売』と、240を超える国・地域での販売網拡充に関心があります。私は〇〇の経験で培った△△を通じてこの拡大に貢献し、企業価値向上につなげたいと考えています」

ここで起きていることを整理する。数字が会社の公式文書から来ているので面接官は否定できない。「1億本」を知っている学生は他にまずいない。「240を超える国・地域」まで言えると、要約ではなく本文を読んだことが伝わる。そのうえで「企業価値向上」で締めている。

業種が変わっても同じだ。アサヒグループホールディングス(2502)の有報には「各事業の総和を超えた企業価値の創造」という一節がある。この言葉を志望動機に組み込める学生が、何人いるだろうか。

型だけ覚えても、見抜かれる

この型は、埋めただけでは通用しない。面接官はほぼ確実に掘ってくる。掘られる質問は3つに集約される——「なぜその戦略に関心を?」「その目標は今どこまで進んでいる?」「あなたはどこで貢献できる?」

型だけで臨むとここで止まり、「聞きかじってきた学生」という、型を使わない場合より悪い評価が確定する。だから土台が要る。土台は同じ有報の中にある。

「事業等のリスク」には会社が自認する弱点が書いてあり、1つ目の質問に答える材料になる。「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」には実際の進捗が書いてあり、2つ目に答えられる。「事業の内容」でセグメント構造がわかれば、3つ目——自分がどこに入るか——を語れる。

同じPDFの中で全部そろう。読む場所が3つ増えるだけで、型が「借り物」から「自分の言葉」に変わる。

よくある質問

Q. 「企業価値向上」という言葉を学生が使うと、背伸びに聞こえませんか。
A. 聞こえません。むしろ経営会議・株主総会・IR資料で実際に使われている言葉なので、面接官には「IR資料を読んでいる学生」として伝わります。ただし型だけ覚えて中身が伴わないと深掘りで止まるため、事業等のリスクなど同じ有報の他の節まで読んでおくことが前提です。
Q. 企業価値とは何ですか。
A. 会社が将来にわたって生み出す価値の総体で、実務では株主価値や時価総額と結びつけて語られます。上場企業の経営者は株主に選ばれる立場のため、資本効率(ROEなど)と企業価値の向上を経営方針として公表しています。約300社の有報の実測では75.9%が経営方針の節でこの言葉を使っていました。
Q. 材料はどこで見つけますか。
A. 有価証券報告書の「第2【事業の状況】」の最初の節「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」です。EDINETで無料で読めます。目標とする経営指標と対処すべき課題が、会社自身の言葉で書かれています。
Q. 非上場企業にもこの型は使えますか。
A. そのままは使えません。非上場企業は有報を出さないことが多く、「企業価値」も社内語として一般的ではないためです。上場親会社がある場合は親会社の有報を材料にできます。非上場の調べ方は別ガイドで扱っています。
Q. ESと面接のどちらで使うべきですか。
A. 両方使えますが、面接では深掘りが前提です。「なぜその戦略に関心を持ったか」「進捗をどう見ているか」「どこで貢献できるか」の3問に答えられる状態で臨んでください。材料は同じ有報の「事業等のリスク」「経営者による分析」「事業の内容」にあります。
Q. ROEやPBRの数字も志望動機に入れるべきですか。
A. 必須ではありません。数字は1〜2個で十分で、会社が掲げる戦略目標(販売目標・展開地域など)のほうが志望動機には接続しやすいです。ROEに触れるなら「目標とする経営指標」に書かれた会社自身の目標値を使ってください。