従業員一人当たり利益の見方|その会社が払える上限が分かる
「なぜこの会社は年収が高いのか」を、感想ではなく数字で説明できる指標がある。純利益を従業員数で割るだけの「一人当たり利益」だ。会社が社員1人あたりでいくら稼いでいるかが分かるので、その会社が給与として配れる上限が見える。計算に必要なのは有価証券報告書の2つの数字だけで、電卓があれば30秒で出せる。この記事では、実際の企業の数字で計算しながら、この指標の使い方と限界を説明する。
計算は「純利益 ÷ 連結従業員数」だけ
有価証券報告書の「主要な経営指標等の推移」から当期純利益を、同じページの下部か「従業員の状況」から連結従業員数を取る。割るだけで終わりだ。単位は「円/人」になる。
なぜ連結を使うかというと、利益は子会社を含めたグループ全体で稼いだものだからだ。提出会社(単体)の従業員数で割ると、持株会社では1人あたりが異常な数字になる。分子と分母の範囲を揃えるのが、この指標を使うときの唯一の作法である。
実例:キーエンス4,973万円、安川電機397万円
FA(ファクトリーオートメーション)業界8社で計算すると、こうなる。キーエンス4,973万円、ファナック2,266万円、ダイフク917万円、アズビル532万円、横河電機460万円、安川電機397万円、オムロン202万円(利益は経常利益または税引前利益ベース)。
キーエンスと安川電機で12.5倍の開きがある。そして両社の平均年間給与は2,178万円と860万円で、こちらは2.53倍だ。つまり稼ぎの差ほど年収の差は開いていない。「稼いだぶんを全部給料にしているから高い」のではなく、そもそも1人あたりで稼ぐ額の桁が違うので、その一部を配るだけで他社の倍以上になる、というのが実態である。
この指標が答えるのは「払えるかどうか」
一人当たり利益が400万円の会社が、1人に2,000万円を払うことはできない。逆に5,000万円稼いでいる会社なら、その一部を配るだけで高い年収になる。つまりこの指標は、その会社の給与水準の天井を示している。
だから「年収が高い会社」を探すときは、年収ランキングを見るより先にこれを計算したほうが早い。そして「この会社の年収は今後も維持されるか」を考えるときも、利益の推移を見れば見当がつく。年収は結果であり、一人当たり利益は原因に近い場所にある。
実数で見ると差の大きさが分かる。FA・自動化8社では、キーエンスが1人あたり4,973万円、ファナックが2,266万円、ダイフクが917万円、オムロンが202万円。最上位と最下位で24倍ひらく。
同じ業界の中でこれだけ開くということは、この指標が業界ではなくその会社の立ち位置を測っているということだ。

業界をまたぐと使えない——中外製薬がキーエンスを超える理由
この指標には明確な限界がある。製薬業界で計算すると、中外製薬の一人当たり当期利益は5,513万円で、キーエンスの4,973万円を上回る。ところが平均年間給与は中外製薬1,350万円に対しキーエンス2,178万円で、中外はキーエンスの62%しかない。
理由は、利益の使い道が業界によって違うからだ。製薬は研究開発に巨額を投じる産業で、稼いだ利益の多くが次の新薬に回る。同じくらい稼いでいても、給与への配分率は業界の慣行や人材市場によって変わる。
したがってこの指標は、同じ業界の中で比べるときにだけ意味を持つ。業界をまたいで「A社はB社より稼いでいるのに年収が低い」と言うのは、ほとんどの場合お門違いになる。
指標を使うときの3つの注意
第一に、利益の名前が会社によって違う。日本基準は「経常利益」「当期純利益」、IFRS採用会社は「税引前利益」「当期利益」を使う。厳密な横比較はできないので、同じ名前の指標で揃えるか、揃わないことを断ったうえで傾向として読む。
第二に、連結従業員数には臨時従業員・パートタイマーが含まれないことが多い。小売や物流では正社員より多い人数が外数になっているので、この指標は「正社員1人あたり」に近い数字になる。
第三に、単年の利益は特殊要因で大きく振れる。減損や資産売却が入った年の数字を使うと実力からずれるので、5期分の推移を見て平年の水準を掴んでから計算するのが安全だ。
面接では「払える理由」を聞く形に変える
この指標を面接でそのまま口にすると、年収の話をしているように聞こえてしまう。使うなら、収益構造への質問に変換する。
「有価証券報告書から計算すると、従業員1人あたりの利益が同業他社と比べて突出していました。この生産性を支えているのは事業モデルのどの部分でしょうか」——年収に触れずに、年収の源泉について聞いている形になる。相手も答えやすく、こちらが数字を自分で計算したことも伝わる。
高い会社が必ず高給とは限らない
1人あたり利益は「払える上限」であって「払っている額」ではない。上限が高くても、実際にいくら払うかは会社の方針で決まる。
中外製薬の1人あたり利益は5,513万円で、キーエンスの4,973万円を上回る。ところが平均年間給与は1,350万8,000円で、キーエンスの2,178万3,000円の62%にとどまる。
この差は業界の収益構造の違いによる。製薬は開発期間が長く、成功した薬の利益が大きい一方で、次の開発への再投資が要る。原資の使い道が違えば、同じ1人あたり利益でも処遇は変わる。
だからこの指標は同業内でしか使えない。業界をまたいで並べると、結論を取り違える。
就活でどう使うか
使い方は2つある。①同業内で会社を比べるとき。1人あたり利益が薄いのに平均年収が高い会社は、その水準の持続性を疑う材料になる。逆に、1人あたり利益が厚いのに年収がそれほど高くない会社は、今後上がる余地があるとも読める。
②面接で構造を語るとき。「1人あたり利益が同業で最も厚いことを拝見しました。少人数で高い付加価値を出す仕組みがあると理解しています」という形で、年収の話をせずに収益力に触れられる。
計算は単純で、営業利益 ÷ 従業員数。連結で揃えるか単体で揃えるかは決めて、混ぜないこと。持株会社の場合、単体の従業員数は数十人ということがあり、それで割ると意味のない数字になる。