ROEの3分解で企業を見る|同じ10%でも中身がまるで違う

ROE(自己資本利益率)は「株主のお金でどれだけ稼いだか」を示す指標で、日本企業では8%が一つの目安とされる。だがROEを単体で見ても、その会社が何をして稼いだのかは分からない。ROEは3つの要素の掛け算に分解できて、分解して初めて「利益率で稼ぐ会社」「回転で稼ぐ会社」「借金で見かけを作っている会社」の区別がつく。就活生がこれを使えると、企業の見え方が一段深くなる。

ROE = 利益率 × 回転率 × 財務レバレッジ

ROEは次の3つの掛け算に分解できる。売上高当期純利益率(利益 ÷ 売上)、総資産回転率(売上 ÷ 総資産)、財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本)。この分解はデュポン分解と呼ばれ、投資家が最初に行う基本動作である。

意味はそれぞれこうだ。利益率は「1回の商売でどれだけ抜けるか」、回転率は「持っている資産を何回転させたか」、レバレッジは「自己資本の何倍の資産を動かしているか」。同じROE10%でも、どこで稼いだかによって会社の性格はまるで違う。

3つのタイプに分かれる

利益率型は、価格決定力があり1件あたりの利幅が厚い会社だ。キーエンスのような会社は経常利益率が50%を超え、回転率やレバレッジに頼らずROEを作る。ブランドや技術で値段を決められることが強みになる。

回転率型は、薄利でも数を回して稼ぐ会社だ。小売や商社に多く、利益率は数%でも資産を高速で回すことでROEを確保する。SIerの大塚商会のように、営業利益率6.8%でROE16.8%という組み合わせがこれにあたる。

レバレッジ型は、他人資本を大きく使う会社だ。銀行や不動産、リースが典型で、自己資本比率が低いぶんROEは高く出る。銀行の自己資本比率が4〜5%程度なのは業態上そういうものだが、ROEの高さを「効率がいい」と単純に読むと誤解する。

ミネベアミツミのROE3分解。ROEは8.2%から12.1%へ3.9ポイント改善したが、動いたのは純利益率のみ(3.90%→5.95%)。総資産回転率は1.015回→0.979回、財務レバレッジは2.07倍で横ばい。
ROEが上がった理由を3つに分けると、動いた要素が特定できる。ここでは純利益率だけが動き、その中身は金融損益だった。

就活生が最も注意すべきはレバレッジ

3つの中で、レバレッジだけは「稼ぐ力」ではない。借入を増やせばレバレッジは上がり、ROEは機械的に高くなる。自社株買いで自己資本を減らしても同じことが起きる。

つまりROEが上がった会社を見たら、まず利益率と回転率が上がったのか、レバレッジが上がっただけなのかを確かめる必要がある。前者は実力の向上だが、後者は財務政策の結果であり、景気が悪化したときの耐性はむしろ下がっている。

確認は簡単で、有価証券報告書の主要な経営指標等の推移に自己資本比率が5期分載っている。自己資本比率が下がりながらROEが上がっているなら、レバレッジ由来の可能性が高い。

計算に必要な数字は全部「主要な経営指標等の推移」にある

有価証券報告書の冒頭、第1【企業の概況】の1番目にある表がそれだ。売上高、当期純利益、総資産額、純資産額、自己資本比率、そしてROE(自己資本利益率)が5期分並んでいる。

多くの会社はROEをそのまま載せているので、自分で計算する必要はない。分解に必要なのは売上・利益・総資産・自己資本の4つで、すべて同じ表にある。ページを移動せずに3分解が完了する。

面接で使うときは「どこで稼いでいるか」の話にする

ROEという言葉を出すこと自体が目的ではない。分解した結果から、その会社の稼ぎ方を言語化することに価値がある。

「ROEを分解すると、御社は利益率でなく資産の回転で収益を作られていると理解しました。この回転の速さを支えているのは、在庫管理と物流のどちらの寄与が大きいのでしょうか」——このように聞けば、指標の暗記ではなく理解として伝わる。

逆に「ROEが高くて魅力的です」とだけ言うと、数字を見ただけの学生に見える。分解して初めて、話が具体になる。

分解して初めて言えること

ミネベアミツミのROEは8.2%から12.1%へ、3.9ポイント上がった。数字だけ見れば大きな改善だ。

ところが3分解すると、動いたのは純利益率だけ(3.90%→5.95%、+2.05ポイント)だった。総資産回転率は1.015回から0.979回へむしろ下がり、財務レバレッジは2.07倍で横ばい。つまり効率も資本構成も変わっていない。

さらにその純利益率の改善は、金融損益の416億73百万円の改善が主因だった。営業利益の増加は94億97百万円で、その4.4倍にあたる。海外売上比率が高く連結81,383名の93.9%が海外を含むグループ会社にいる構造を踏まえれば、為替の影響が大きいと読むのが自然だ。

決定的なのは会社自身の見通しだ。通期計画は「営業利益+15.4%、純利益△12.2%」。本業は伸ばすが最終利益は減ると会社が言っている。金融損益の追い風が続かない前提である。

面接でどう使うか

「ROEが12.1%まで上がりましたね」で止めると、表面をなぞっただけになる。分解まで見ていることを示すと、読み方の段階が違うことが伝わる。

例:「ROEが8.2%から12.1%へ上がっていますが、3分解すると動いたのは純利益率だけで、その中身は金融損益の416億円改善でした。本業の営業利益は+10.1%で、御社自身も通期計画で純利益△12.2%と見ていらっしゃいます。だからこそ本業の利益率を上げることが次の課題だと理解していますが、そこにはどのような打ち手を考えていらっしゃいますか」

この型は他社にも使える。ROEが動いた会社を見つけたら、まず3分解する。動いたのが純利益率なら一過性を疑い、回転率なら資産効率の改善、レバレッジなら借入か自社株買いを疑う。

注意点として、ROEとROICが逆方向に動いていたら事業売却益などの一過性要因を強く疑う。営業利益・経常利益・純利益の伸び率を並べて、どこで差がついたかを確認する。

よくある質問

Q. ROE8%が目安と言われるのはなぜですか。
A. 投資家が日本株に期待する資本コスト(リターンの最低ライン)が概ね7〜8%とされているためです。これを下回ると、株主の資金を使って価値を生んでいないと評価されます。就活生としては、8%は「合格ライン」であって高いわけではない、と理解しておくと十分です。
Q. ROEとROAはどう違いますか。
A. ROAは総資産に対する利益率で、レバレッジの影響を受けません。ROEが高くROAが低い会社は、借入で嵩上げしている可能性があります。2つを並べて見ると、レバレッジの効き具合が分かります。
Q. 銀行のROEは他業界と比べられますか。
A. 比べられません。銀行は預金という他人資本を大量に使う業態なので、自己資本比率が構造的に低くレバレッジが高くなります。金融は金融同士で比べてください。
Q. 3分解の数字はどこまで正確に計算すべきですか。
A. 小数第1位まで出せば十分です。目的は精密な計算ではなく、3つのうちどれが効いているかを掴むことなので、概算で構いません。
Q. ROEの3分解はどう計算しますか。
A. 純利益率(純利益÷売上高)×総資産回転率(売上高÷総資産)×財務レバレッジ(総資産÷自己資本)です。いずれも有価証券報告書の財務諸表から取れます。
Q. ROEが上がったのは良いことではないのですか。
A. 要因によります。純利益率の改善が一過性の売却益や為替なら続きません。回転率の改善なら資産効率が上がっており、レバレッジの上昇なら借入か自社株買いで、財務リスクは高まります。分解して初めて評価できます。