会社の将来性の見分け方——有価証券報告書で確かめる5つの数字
この会社に入って大丈夫か。いま勤めている会社は持ちこたえるのか。これを口コミサイトで確かめようとすると、書いた人の立場と時期に振り回される。上場企業なら、もっと確実な方法がある。有価証券報告書には5期分の業績が並んでいて、そこに会社の実態が出る。この記事では、感想ではなく数字で将来性を見るための5か所を、実際の企業の開示データで示す。
見るべきは「主要な経営指標等」の5期分
有価証券報告書の冒頭、第1「企業の概況」の最初に「主要な経営指標等の推移」がある。ここに売上高、経常利益、当期純利益、純資産、総資産などが5期分並んでいる。会社の状態を1ページで掴める場所で、まずここを開く。
5期という長さに意味がある。1期だけなら特殊要因で上下するが、5期並べると方向が見える。伸びているのか、頭打ちなのか、落ちはじめたのか。求人票にも会社説明にも書かれない情報が、この表には出ている。
この記事で挙げる数字は、すべてEDINETで公開されている有価証券報告書から取ったものだ。誰でも同じ手順で確認できる。
売上が伸びていても、利益は落ちることがある
最も見落とされやすいのが、売上と利益のねじれだ。売上が伸びていれば会社は健全だと思われがちだが、5期分を並べると逆の動きが見つかる。
SUMCO(3436)は、売上高が3,357億円から4,097億円へ22.0%伸びている。同じ期間に当期純利益は411億円の黒字から118億円の赤字に転じた。売上は2割増えて、利益は黒字から赤字に落ちている。
クラレ(3405)は売上高6,294億円から8,084億円へ28.5%伸びた一方、当期純利益は373億円から75億円へ80.0%減った。セガサミーホールディングス(6460)も売上高3,209億円から4,875億円へ51.9%伸びながら、当期純利益は370億円の黒字から58億円の赤字になっている。
3社に共通するのは、売上だけを見ていたら見えないということだ。売上の伸びは事業の広がりを示すが、利益が伴わなければ、その広がりは体力を削って買ったものかもしれない。将来性を見るときは、必ず売上と利益を並べて、方向が一致しているかを確認する。
なぜ落ちたのかは、必ず有報の中で確かめる
数字が落ちている理由を、外から推測してはいけない。有価証券報告書には第2「事業の状況」に経営者による説明が載っていて、その期に何が起きたかが書かれている。
利益の落ち方には種類がある。事業そのものが弱っている場合と、減損や事業売却のような一過性の要因で1期だけ大きく振れた場合では、意味がまったく違う。後者なら翌期には戻る。
見分ける手がかりは、営業利益・経常利益・当期純利益の3つを並べることだ。営業利益は保っているのに当期純利益だけが大きく落ちていれば、本業ではなく特別損失の影響が大きい。逆に営業利益から順に落ちていれば、本業が弱っている。
セグメント情報で、どの事業が稼いでいるかを見る
会社全体の数字が横ばいでも、中身は入れ替わっていることがある。第5「経理の状況」の注記にあるセグメント情報を見ると、事業別の売上と利益が分かる。
見るのは売上ではなく利益のほうだ。売上構成比が大きいのに利益をほとんど出していない事業があれば、そこは人手をかけて稼げていない。逆に売上は小さいのに利益の大半を出している事業があれば、会社はそこに依存している。
転職で確かめるべきなのは、自分が配属される事業がどちらかということだ。会社が伸びていても、稼いでいない側の事業に入れば、置かれる環境は会社全体の印象とは違う。
従業員数の推移には、会社の本音が出る
第1「企業の概況」の「従業員の状況」には、連結と提出会社の従業員数が載っている。前期との比較も併記されるので、増えているか減っているかが分かる。
従業員数が減っている会社は、採用を絞ったか、人が出ているかのどちらかだ。どちらなのかは平均年齢と平均勤続年数を合わせて見ると当たりがつく。人が出ているなら平均勤続年数が短くなり、採用を絞っているなら平均年齢が上がる。
採用を絞っている会社に中途で入る場合、少人数で回している分だけ裁量は大きくなる可能性がある。一方で、教育に人を割く余裕がないことも多い。数字から読めるのはここまでで、実際にどちらかは面談で確かめる。
「事業等のリスク」は、内容より書きぶりを読む
第2「事業の状況」にある「事業等のリスク」は、その会社が自分の弱点をどう認識しているかが出る場所だ。
読み方のコツは、書いてある内容そのものより、具体性を見ることだ。自社固有の事情を数字や条件つきで書いている会社は、社内で問題を問題として扱えている。「景気変動の影響を受ける可能性があります」のような、どの会社にも当てはまる一般論だけが並ぶ会社は、社内でも同じ言葉で会話している可能性がある。
この差は読み比べるとすぐ分かる。2社の有報を並べて「事業等のリスク」だけを読むと、会社の性格の違いが数字より鮮明に出ることがある。
確かめる順番
実務的な順番はこうなる。主要な経営指標等で5期分の売上と利益の方向を見る。ねじれがあれば事業の状況でその理由を読む。セグメント情報で自分が入る事業の位置を確認する。従業員数の推移で採用と定着の傾向を掴む。最後に事業等のリスクで会社の誠実さを見る。
ここまでで、その会社に対して聞くべき質問がはっきりする。将来性という言葉は曖昧だが、「利益が落ちた3期前に何があったのか」「自分が入る事業は利益をどれだけ出しているのか」は、事実に基づいた具体的な問いだ。
口コミサイトが役に立たないという話ではない。現場の空気は有報には書かれていない。ただ、会社が持ちこたえるかどうかという問いに対しては、法的責任を負って提出された数字のほうが確実だ。順番としては、有報で構造を掴んでから口コミで空気を補うのがいい。