退職金の調べ方——有価証券報告書の「退職給付関係」から読む

退職金の制度は、口コミサイトにはほとんど載っていない。金額が人によって違ううえ、辞めた人しか実額を知らないからだ。しかし上場企業なら、制度の中身は有価証券報告書に必ず書いてある。しかも「どういう制度か」は金額より重要で、転職したときに持ち出せるかどうかがここで決まる。この記事では、どこを開けば何が分かるのかを、実際の企業の開示で示す。

退職金の情報は「経理の状況」の注記にある

探す場所は、有価証券報告書の第5「経理の状況」の中、連結財務諸表の注記事項にある「退職給付関係」だ。「従業員の状況」のような目立つ位置ではなく、財務諸表の後ろのほうに置かれている。EDINETでPDFを開いたら、Cmd+F(WindowsはCtrl+F)で「退職給付関係」と検索するのが早い。

この注記は、たいてい「1 採用している退職給付制度の概要」から始まる。ここが本記事で最も重要な部分だ。金額の話に入る前に、その会社がどういう仕組みで退職金を用意しているかが書かれている。

その後に「2 確定給付制度」として、退職給付債務の期首残高と期末残高の調整表、年金資産の調整表、退職給付費用などが続く。数字は連結ベースなので、グループ全体の合計であることに注意する。

まず見るのは金額ではなく「制度の種類」

退職給付制度は大きく2つに分かれる。確定給付(DB)と確定拠出(DC)だ。この違いは、転職を考えるときに決定的な意味を持つ。

確定給付は、会社が将来の給付額を約束し、運用の責任も会社が負う。退職一時金制度や確定給付企業年金がこれにあたる。勤続年数が効く設計になっていることが多く、途中で辞めると受取額が大きく目減りする場合がある。

確定拠出は、会社が毎月一定額を拠出し、運用は本人が行う。運用結果によって受取額が変わる代わりに、転職しても自分の資産として持ち出せる。転職を前提に考えるなら、確定拠出の比重が大きい会社のほうが不利益は小さい。

多くの会社は両方を併用している。三井不動産の有報には「積立型、非積立型の確定給付制度および確定拠出制度を採用しています」と書かれ、大和ハウス工業は「確定給付型の制度として企業年金基金制度及び退職一時金制度、また、確定拠出型の制度として確定拠出年金制度を設けております」としている。どちらが主でどちらが従かは、この文章の書き方と後続の金額から読む。

制度の変更は、会社の姿勢がいちばん出る

注記には、その期に制度を変えた場合、変更の内容が書かれる。ここは口コミサイトでは絶対に手に入らない情報だ。

ダイキン工業は「2025年4月1日付で確定給付企業年金制度及び退職一時金制度の一部を確定拠出年金制度へ移行しております」と開示している。会社が将来の給付を約束する部分を減らし、その分を本人の運用に移したということだ。良い悪いではなく、事実としてそう動いた。

三菱地所は「60歳から65歳への定年延長に伴う確定給付企業年金制度及び退職一時金制度の改定」を行い、その結果「退職給付債務が12,111百万円減少」したと書いている。定年が延びると給付の支払いが後ろにずれるため、現在価値としての債務が減る。制度改定の理由と金額がセットで書かれている好例だ。

富士通は制度の一部が「リスク分担型企業年金」となっていると開示している。これは会社と従業員で運用リスクを分け合う仕組みで、確定給付と確定拠出の中間にあたる。名前を知らなければ読み飛ばしてしまう記述だが、受け取り方に直結する。

退職給付債務は「自分がもらえる額」ではない

注記に出てくる退職給付債務(PBO)は、これまでの勤務に対して将来支払うと見込まれる給付の現在価値だ。三菱地所の直近の期末残高は112,939百万円で、勤務費用は5,100百万円である。

この数字を従業員数で割れば1人あたりの目安は出る。ただしそれを自分の受取見込額と考えてはいけない。退職給付債務は在籍者全員の勤続年数の積み上がりを反映しているので、平均勤続年数が長い会社ほど大きく出る。新しく入る人の水準を示す数字ではない。

使い方としては、同業他社と1人あたりで並べて相対的な厚みを見る、という程度にとどめる。絶対額を自分の退職金として計算するのは誤読だ。

割増退職金の記載があるかも見ておく

注記の中に「従業員の退職等に際して割増退職金を支払う場合があります」という一文が入っていることがある。大和ハウス工業とANAホールディングスの有報には、いずれもこの記載がある。

これは早期退職や希望退職に応じた場合の上乗せを想定した記述だ。記載があること自体は珍しくないので、これだけで人員削減を読み取るのは行き過ぎになる。ただし、同じ会社の複数年の有報を並べて、割増退職金の実際の計上額が急に増えている年があれば、その期に何かがあったということになる。

セブン&アイ・ホールディングスのように「選択型確定拠出年金制度」を採用している会社もある。従業員が受け取り方を選べる仕組みで、こうした選択肢の有無も注記から分かる。

転職で見るなら、この順番で読む

確認の順番を決めておくと早い。第一に、制度の概要を読んで確定給付と確定拠出の組み合わせを把握する。第二に、直近数年で制度改定があったかを見る。第三に、割増退職金や選択制の記載を確認する。金額を見るのは最後でいい。

この順番にする理由は、転職者にとって効くのが金額より制度の型だからだ。確定給付が中心で勤続年数が強く効く会社に短期間だけ在籍すると、退職金の面では不利になる。逆に確定拠出中心の会社なら、在籍期間が短くても拠出分は残る。

そして、有報に書いてあるのはあくまで制度と全社の数字だ。自分の場合の具体額は、内定後に会社の退職金規程を見せてもらうしかない。有報でできるのは、聞くべきことを事前に特定することだ。「御社は確定拠出への移行を進めていますか」と聞ける状態で面談に臨めるかどうかが、この記事の実利になる。

よくある質問

Q. 退職金は有価証券報告書のどこに載っていますか。
A. 第5「経理の状況」の連結財務諸表の注記事項にある「退職給付関係」です。「従業員の状況」ではないので、PDFを開いたらCmd+Fで「退職給付関係」と検索するのが早いです。
Q. 有価証券報告書を見れば自分の退職金額が分かりますか。
A. 分かりません。載っているのは制度の内容と会社全体の金額です。退職給付債務を従業員数で割っても、在籍者全員の勤続の積み上がりを反映した数字なので、個人の受取見込額にはなりません。具体額は会社の退職金規程で確認してください。
Q. 確定給付と確定拠出はどちらが転職に有利ですか。
A. 転職を前提にするなら確定拠出の比重が大きいほうが不利益は小さくなります。確定拠出は自分の資産として持ち出せるためです。確定給付は勤続年数が強く効く設計が多く、短期間で辞めると目減りする場合があります。
Q. 退職給付債務が減っている会社は退職金が減ったのですか。
A. 必ずしもそうとは限りません。定年延長で支払いが後ろにずれた結果として現在価値が減ることもあります。三菱地所は60歳から65歳への定年延長に伴う制度改定で退職給付債務が12,111百万円減少したと開示しています。理由は注記に書かれているので、金額だけで判断しないでください。
Q. リスク分担型企業年金とは何ですか。
A. 会社と従業員で運用リスクを分け合う仕組みで、確定給付と確定拠出の中間にあたります。富士通は制度の一部がこれに該当すると開示しています。名称を知らないと読み飛ばしてしまいますが、受け取り方に直結する記述です。
Q. 非上場企業の退職金制度は調べられますか。
A. 有価証券報告書を提出していない会社では、この方法は使えません。親会社が上場していれば連結の注記に含まれている可能性がありますが、子会社単独の制度までは通常書かれていません。