カカクコム(2371)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、カカクコムを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「ROE 29.7%は「未達」、売上51.2%増の事業はわざと赤字にした」です。
有報の数字(第29期)
- 売上高
- 941億円
- 純利益
- 188億円
- ROE
- 29.7%
- 従業員数(連結)
- 1,421人
- 従業員数(単体)
- 1,152人
- 平均年間給与(単体)
- 755万円
- 平均年齢
- 37.3歳
- 平均勤続年数
- 6.6年
出典:カカクコムの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
カカクコムを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、カカクコムに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはカカクコムの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社カカクコム 有価証券報告書 第29期(2025年4月1日〜2026年3月31日)に基づきます。
カカクコムは、高い資本効率を目標に掲げながら、求人ボックスへの先行投資で当期の利益をあえて減らした会社だ。
知っておきたいことは3つある。
目標は高く、未達だと会社自身が書いている。ROE(株主から預かったお金で、どれだけ利益を出せたかを示す率)の目標は40%以上だ。当期は29.7%で、会社は「目標を下回った」と有報に明記している。
黒字の事業を、わざと赤字にした。求人ボックス事業は売上が51.2%伸びたが、損益は約15億円の赤字になった。成長のための先行投資である。
利益の柱は食べログだ。月間利用者は9,708万人で、その利益の出方は第2章で見る。
この記事では、会社が何に賭け、どこで利益を削り、その結果が働く側の数字にどう出ているかを確かめる。
第1章 カカクコムは何に賭けているのか
1-1. 会社が自分で決めた目標——ROE 40%以上
カカクコムのミッションは「ユーザーファーストで、新しい常識を作る」だ。成長の基本方針は、売上と営業利益を中長期で二桁(年10%以上)伸ばし続けることである。
もう一つの目標が資本効率だ。有報は「ROE 40%以上を重要な目標」と書く。ROEが高いほど、少ない元手で多くの利益を出せている。
会社は、株主が投資に求める利回り(株主資本コスト)を7〜8%程度と見ている。目標はその約5倍にあたる。ここまで高い目標を置く会社は、まずない。
ここに難しさがある。成長には投資が要り、投資は費用と資産を増やしてROEを下げる。成長と資本効率は、逆を向きやすい。この会社は、その矛盾を自ら引き受けている。
志望動機で「成長と高い資本効率の両立に挑む会社だから」と理由にできる。逆質問では「ROE 40%以上をいつ頃までに達成する想定ですか」と聞ける。
1-2. 黒字の事業を、わざと赤字にした——求人ボックス
当期、求人ボックス事業の売上収益(売上高にあたるもの)は51.2%伸びた。それでも事業の損益は、前期の約43億円の黒字から約15億円の赤字へ落ちた。
有報が挙げる理由は、ブランド投資と営業代理店との連携だ。ブランド投資とは、テレビCMを含む広告宣伝を指す。月間利用者は1,557万人まで増え、利用する企業のアカウントも増えた。
利用者を増やすために先に費用を使い、収益は後から取りにいく形だ。
事業の名前も変わった。2026年4月1日付で「求人ボックス事業」から「HR事業」になった。「求人ボックス」と「エンゲージ」の2ブランド体制で、第3の柱を作りにいく動きである。
成長投資の対象は、有報で3つに定められている。人への投資、先端技術の研究開発、M&Aや出資だ。M&Aでは、「暮らし」領域のLiPLUSホールディングスを連結子会社にした。
課題指摘では「先行投資をいつ回収するか」を論点にできる。逆質問は「HR事業が黒字に戻る目安を、社内ではどう置いていますか」が使える。
1-3. 中期経営計画はFY30/3まで——28卒が入るのはその途中
中期経営計画とは、会社が数年先までの目標を公表したものだ。カカクコムは2025年3月19日に「FY26/3〜FY30/3」の5か年計画を発表した。当期はその初年度にあたる。
計画の柱は、売上と営業利益の二桁成長だ。あわせて、株主還元と成長投資のバランスを取るとしている。
翌期の会社予想は強気だ。売上収益は1,145億円を見込む。営業利益(本業のもうけ)は308億円を見込む。
ただし、足元は楽ではない。2027年3月期の第1四半期(2026年8月5日発表)は、売上が伸びた一方、営業利益は5.6%減った。価格.com事業が、金融分野の低迷で減収減益になったためだ。食べログ事業とHR事業は好調だった。
28卒が入社する頃は、計画の折り返しを過ぎる。「投資は成果になったのか」という問いに、答えが出始める時期だ。
志望動機では「投資の回収期に入り、成果づくりに関わりたい」と語れる。逆質問は「第1四半期は増収減益でしたが、価格.com事業の立て直しをどう考えていますか」が使える。
1-4. ROEが下がった理由——会社が有報に2つ書いている
当期のROEは29.7%で、前期から5.7ポイント下がった。会社自身が、目標の40%以上を「引き続き下回る」と有報に明記している。
理由は2つ書かれている。
第1に、成長投資だ。求人ボックスを中心とした投資で費用が増え、各事業の増収による利益の押し上げを上回った。
第2に、自己株式の取得(自社株買い)の見送りだ。自社株買いをすると自己資本が減り、ROEは上がる。会社は、成長投資の資金確保を優先してこれをやめた。
結果として、利益の蓄積で自己資本が増え、ROEは下がる方向に働いた。ROEの低下は事業の悪化ではなく、「投資を増やし、自社株買いをやめた」という2つの判断の結果だ。
「ROEの低下は、成長投資を優先した意図的な判断と理解しています」と課題の捉え方を示せる。そのうえで「投資が実ったとき、40%以上へ戻る道筋をどう描いていますか」と逆質問にできる。
1-5. 働く側の事実——従業員1,421人、平均年齢37.3歳
連結の従業員は1,421人。提出会社の平均年齢は37.3歳、平均勤続は6.6年だ。
平均年間給与は754万7,000円で、前年から4.7%上がった。
平均年齢から勤続年数を引くと、入社時は約31歳になる。中途採用が中心と読める。
人員の配置も見ておきたい。価格.com事業が465人で最多だ。利益の柱である食べログ事業は361人、投資先のHR事業は183人である。
有報は人材について、事業規模の拡大に応じた積極的な採用と育成の強化に取り組むと書く。成長投資の第一項目が「人への投資」であることとも合う。
逆質問で「中途入社が多い中で、新卒に期待する役割は何ですか」と聞ける。「HR事業の人員をどう増やす計画ですか」も、会社の賭けに沿った質問になる。
第2章 インターネットメディア業の収益構造
2-1. なぜ食べログの利益率は55%なのか
食べログ事業の利益率は55%だ。売上の半分以上が利益になる。製造業や小売業では、まず出ない水準である。
理由は費用の構造にある。サイトは作るまでに開発費と人件費がかかる。だが一度作れば、利用者が増えても追加の費用はほとんど増えない。
ただし、これには条件がある。十分な利用者を集めていることだ。食べログの月間利用者は9,708万人で、この規模があるから成立する。
HR事業の月間利用者は1,557万人で、食べログの約16%の水準だ。赤字を出してでも投資を続けるのは、利用者を集めるまでが勝負だからと読める。
志望動機では「利用者が増えるほど利益が積み上がる構造に魅力を感じた」と言える。課題指摘では「HR事業はまだ利用者規模を作る段階」と整理できる。
2-2. 「枠を売る」から「成果で課金する」へ
食べログの売上の内訳では、飲食店予約が200億円で、飲食店広告の166億円を上回った。伸び率も予約のほうが約2倍の速さだ。
広告は、掲載してもらう対価である。予約は、客を送った対価である。予約は客が来た分だけ払えばよく、店にとって納得しやすい。
一方、バナー広告などと推定される「広告」の売上は減っている。枠を売る商売が縮み、成果に応じて課金する商売が伸びていると読める。
成果を測るには、利用者の行動データが要る。カカクコムがKDDIと資本業務提携を結んでいるのは、この文脈で読める。提携の目的は、双方が持つデータとノウハウを融合することだ。
逆質問で「予約の成果課金を、他のサービスにどう広げますか」「KDDIとのデータ活用はどこまで進んでいますか」と聞ける。
2-3. 資産を持たない会社の資本政策
カカクコムは工場も店舗も在庫も持たない。総資産の約半分が現金である。
資産が軽く利益率が高いので、ROEは高くなる。だが軽さには裏返しがある。参入障壁が資産ではなく、利用者数とブランドとデータになる点だ。
もう一つは、自己資本が積み上がりやすい点だ。設備投資が要らず、放っておけば現金が膨らみ、ROEは下がる。だから会社は株主還元で調整してきた。方針は、配当性向(利益のうち配当に回す割合)50%以上である。
当期は自社株買いを見送った。自己資本が総資産に占める割合は、66.1%から70.3%へ上がった。資産の軽い会社にとって、資本政策は経営そのものだ。
逆質問で「手元の現金を、M&Aと株主還元にどう配分する方針ですか」と聞ける。課題指摘では「資本効率と成長投資のバランス」を自分の言葉で語れる。
カカクコムの構造的課題と追い風は、3つに分けて第3章で扱う(利用者を集めるまでの赤字を、どこまで許容できるか/主力事業の減速リスク/ROE 40%という目標の重さ)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。ROEは29.7%と極めて高い水準ながら、会社は「目標40%以上を引き続き下回る」と明記しました。3分解すると回転率は+14.1%と改善し、下がったのは純利益率(求人ボックスへの成長投資)と財務レバレッジ(自己株式取得の見送り)——どちらも会社が有報で理由を書いた、意図的な判断です。事業別では食べログが利益率55.16%・1人あたり6,148万円で柱を担う一方、求人ボックスは売上+51.2%でセグメント損失14億円。そして食べログの中では予約200億円が広告166億円を追い抜きました。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 インターネットメディア業の構造的課題——利用者を集めるまでの赤字を、どこまで許容できるか/主力事業の減速リスク/ROE 40%という目標の重さ
- 第3.5章 面接前に押さえるカカクコムの最新ニュース10本——ROE未達・求人ボックスの赤字・第1四半期の減益まで
- 第4章 内定者の正体——「食べログが好き」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収754万7,000円の読み方と、1,421人の組織
- 第6章 働く環境の現実——勤続6.6年の読み方、女性役員比率18.2%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生