ABCマート(2670)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、ABCマートを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「人は海外、利益は国内」です。
有報の数字(第41期)
- 売上高
- 3,786億円
- 純利益
- 463億円
- ROE
- 12.1%
- 従業員数(連結)
- 9,101人
- 従業員数(単体)
- 3,977人
- 平均年間給与(単体)
- 441万円
- 平均年齢
- 32.0歳
- 平均勤続年数
- 9.0年
出典:ABCマートの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
エービーシー・マートを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、エービーシー・マートに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはエービーシー・マートの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社エービーシー・マート 有価証券報告書 第41期(2025年3月1日〜2026年2月28日)に基づきます。
エービーシー・マートは、国内の靴販売で高い利益を稼ぎ、その余力で海外に賭けている会社だ。
知っておきたいことは3つある。
会社が掲げる指標は「営業利益率を二桁で保つ」ただ1つだ。営業利益率とは、本業の儲けが売上の何%かを示す数字で、実績は16.71%である。
国内の利益率は20.66%、海外は6.31%と差が大きい。人数は海外のほうが多いのに、稼ぎは国内に偏っている。
自己資本比率は87.5%と高い。これは、返さなくてよいお金が資産の何割を占めるかを示す数字だ。借金にほとんど頼らず、店を増やしている。
この記事では、この3点を数字で確かめ、面接で自分の言葉で語れる形にする。
第1章 エービーシー・マートは何に賭けているのか
1-1. 会社の賭けは「営業利益率二桁」ただ1つ
有価証券報告書(会社が国に出す年次報告)の「目標とする経営指標」に、次の一文がある。
「当社グループの経営指標としては、連結営業利益率を二桁水準で維持することを目標とします」
売上目標や、年限を切った中期経営計画の数値は置いていない。会社が自分で決めた約束は、利益率を保つことだけだ。
現在地について、有報は自ら数字を挙げている。国内の靴市場は1兆2,000億円まで回復し、同社は2割のシェアで国内トップだという。すでに首位なので、賭けの中身は、利益率を落とさずに広げることにある。
出店も「国内外で年間100店舗」を続けるとしている。
志望動機で「利益率を保ちながら広げる会社に賭けたい」と言える。逆質問は「二桁の維持に、年間100店舗の出店はどう効くのか」が使える。
1-2. 利益率を支えるのは、買い集めたブランド
同社は靴ブランドの商標権(ブランド名を使う権利)を買ってきた。1995年にHAWKINS、2012年にDannerとLaCrosse、2014年にWhite's Bootsである。
買った後も自社名に統合せず、ブランド名のまま残している。Dannerは専門店の屋号にもなっている。
有報は、その狙いを「高い収益性を実現し」と書く。他社ブランドを仕入れて売ると、利幅は卸の分しか残らない。自社ブランドなら、企画から販売までの利幅が自社に残る。
二桁の利益率を支える仕組みは、この構造にあると読める。
志望動機で「ブランドを自社で持つ小売に魅力を感じる」と語れる。逆質問は「新規ブランドの取得は、どんな基準で選ぶのか」が使える。
1-3. 国内が稼ぎ、海外は人が多いのに利益が小さい
この会社の報告セグメント(事業の区分)は、国内と海外の2つだけだ。国内の利益率は20.66%、海外は6.31%で、3倍以上の差がある。
人数は逆転している。連結の従業員9,101人のうち、過半の海外に4,934人、国内に4,167人がいる。
従業員1人あたりのセグメント利益は、国内が1,354万円、海外が143万円だ。
しかも第41期は、海外の売上が前期比で減り、利益は25.8%減った。
課題指摘に使える。「海外の収益性を国内に近づける」ことを、自分の貢献テーマとして語れる。逆質問は「海外の利益率を、どこまで引き上げる想定か」が使える。
1-4. 現金が総資産の45.5%、投資は海外に厚い
現金及び現金同等物は2,071億円で、総資産の45.5%にあたる。総資産の半分近くが現金だ。
投資の向け先も見ておく。設備投資の増加額のうち、海外が61.4%を占める。
一方、セグメント利益の大半は国内が稼いでいる。いま稼ぐ場所ではなく、これから稼ぐ場所に投じていると読める。
志望動機で「自己資金で海外投資を続けられる財務の厚さ」を根拠にできる。逆質問は「厚い現金を、出店・買収・株主への還元のどれに優先して使うのか」が使える。
1-5. 働く側の事実:若い組織で、店舗の社員が多い
提出会社(エービーシー・マート本体)の従業員は3,977人、平均年齢は32才8ヶ月、平均勤続は9年4ヶ月だ。平均年間給与は441万円である。
同じシリーズで解剖した企業の中では、平均年齢が最も若く、年収は最も低い。店舗の第一線に多くの社員がいる構成が背景にある。
管理職に占める女性の割合は16.5%、男性の育児休業取得率は76.8%だ。
志望動機で「若いうちから店舗で任される環境」を挙げられる。逆質問は、年収が店長などの役職でどう上がっていくかを聞くとよい。
第2章 小売業の収益構造
2-1. 営業利益率16.71%が小売で異例な理由
同じシリーズで解剖した企業と比べると、ゼンショーHDは6.44%、すかいらーくHDは6.54%と1桁だ。この会社の16.71%は、小売としてかなり高い。
理由は3つ考えられる。
第1に、自社ブランドなど、他店で買えない商品を持つこと。価格競争になりにくい。
第2に、靴は食品と違って腐らず、在庫を管理しやすいこと。値下げを抑えられる。
第3に、設備が軽いこと。減価償却費は営業利益の10.1%にすぎない。
志望動機で「他店にない商品で価格競争を避けている」点を挙げられる。「なぜ高い利益率なのか」と聞かれても、この3点で答えられる。
2-2. 海外6.31%をどう読むか
海外の利益率は前期の8.12%から6.31%へ下がった。同じ商品を売っても国内と差がつく理由は、ブランド力、独占的に扱える商品の範囲、店舗網の規模、現地の競合の4つが考えられる。
海外売上の約6割は韓国だ。有報によれば、韓国では海外の大手チェーンが撤退して市場の寡占化が進み、同社はそこで主導権を握っている。
売上が減ると、家賃や人件費は残るため、利益はそれ以上に減る。
なお2027年2月期第1四半期には、海外の利益が29.2%増と回復している(第3章で詳述)。
課題指摘と逆質問に使える。「第1四半期は回復したが、通期で6.31%からどこまで戻す計画か」と聞くと、数字を追っている学生だと伝わる。
2-3. 在庫は小売で最大のリスク
靴は、サイズ、季節、流行の3つで売れ方が変わる。売れ筋のサイズが欠ければ機会を逃し、売れ残れば値下げするしかない。
だから在庫を持ちすぎると、利益率が落ちる。国内の20.66%は、在庫をうまく管理できている証拠とも読める。裏を返せば、管理を誤ればこの利益率は崩れる。
課題指摘に使える。「在庫の見立てが利益率を左右する」と捉え、需要の見方を学びたいと語れる。逆質問は「在庫の水準を、何の指標で管理しているのか」が使える。
ABCマートの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(増収率が+1.7%まで落ちた/現金2,072億円をどう使うか/人の半分が海外にいて、利益の11.1%/2027年2月期は営業利益656億円の計画)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。売上高3,786億円(+1.7%)・営業利益632億円(+1.2%)・純利益463億円(+2.2%)で営業利益率16.71%は小売として極めて高く、セグメント別では国内が2,731億円・利益564億円(利益率20.66%、+6.3%)に対し海外は1,113億円・70億円(6.31%、△25.8%)と3.3倍の開き、1人あたり利益は国内1,354万円と海外143万円で9.5倍でありながら従業員は海外4,934名が国内4,167名を上回り連結の54.2%を占める、それでも設備投資の61.4%(88億円、+42.8%)は海外へ、自己資本比率87.5%は同じマガジンで解剖したどの企業より高く現金2,071億円は総資産の45.5%、平均年齢32才8ヶ月・年収441万3,809円はいずれも最も若く最も低い、女性管理職16.5%と男性育休76.8%は高水準、そして2027年2月期第1四半期は海外が+29.2%と回復——エービーシー・マートの構造を数字で確認しました。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 小売業の構造的課題——増収率が+1.7%まで落ちた/現金2,072億円をどう使うか/人の半分が海外にいて、利益の11.1%/2027年2月期は営業利益656億円の計画
- 第3.5章 面接前に押さえるABCマートの最新ニュース10本——国内20.66%・現金2,072億円・海外+29.2%まで
- 第4章 内定者の正体——「靴が好きです」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収441万円の読み方と、国内・海外のキャリア
- 第6章 働く環境の現実——32才8ヶ月という若さ、女性管理職16.5%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——IRで差をつける志望動機3つの型・課題回答2パターン・逆質問8本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生