日本触媒(4114)の企業研究——有価証券報告書で読む

このページは、日本触媒を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「主力事業に「構造改革」、もう一方に375億円の新工場」です。

有報の数字(第114期)

売上高
3,999億円
純利益
168億円
ROE
4.3%
従業員数(連結)
4,880人
従業員数(単体)
2,573人
平均年間給与(単体)
859万円
平均年齢
39.4歳
平均勤続年数
16.6年

出典:日本触媒の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。

はじめに

日本触媒を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、日本触媒に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは日本触媒の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。

※本記事の数値は、株式会社日本触媒 有価証券報告書 第114期(2025年4月1日〜2026年3月31日)に基づきます。

結論から言う。日本触媒は、売上の約7割を占める主力事業を締め、残り約3割の事業へ資金を移して会社の重心を入れ替えている。

知っておきたいことは3つある。

事業は2つある。 主力のマテリアルズ事業は、アクリル酸などの汎用品を作る。ソリューションズ事業は、電池材料など用途を絞った製品を作る。日本触媒は紙おむつに使う高吸水性樹脂(SAP)でも世界トップクラスだ。

業績は逆向きに動いた。 マテリアルズは売上の69.7%を占めるが、営業利益(本業のもうけ)は20.7%減った。ソリューションズは売上の30.3%で、営業利益は27.1%増えた。

投資は後者へ向かう。 北九州の電池用電解質(電池の材料)の設備に375億円、川崎の構造改革に約163億円が計画されている。

この記事では、会社が何に賭け、その進み具合が数字のどこに出るのかを確かめる。

第1章 日本触媒は何に賭けているのか

1-1. 最優先は「事業の入れ替え」——伸ばす事業と締める事業

日本触媒は2030年に向けた長期ビジョンで、「事業の変革」「環境対応への変革」「組織の変革」の3つを掲げる。その具体策が、2025〜2027年度の中期経営計画2027だ。中期経営計画とは、会社が数年先までの目標と進め方を示した計画である。

この計画は、事業ポートフォリオの変革を最優先事項と定める。ポートフォリオとは、事業の組み合わせのことだ。

2つの事業の役割は、有報で書き分けられている。

ソリューションズ事業:成長領域への積極的な設備投資で、事業規模と利益を拡大する。

マテリアルズ事業:設備の最適化で生産性を高め、他社との提携も使って収益力を強化する。

新しい事業を足す「多角化」ではない。既存の2事業の重みを入れ替える変革である。

面接での使い方

志望動機で「事業の入れ替えに関わりたい」と語る根拠になる。逆質問では、中計2027の最終年度である2027年度に何を達成の目印にしているかを聞ける。

1-2. 賭けの中身——電池に375億円、構造改革に約163億円

戦略は、掲げるだけなら誰でもできる。どこにいくら出すと書いたかを見る。

有報の設備投資予定は、総額640億円だ。その中で性格の違う2件が並ぶ。

北九州工場(ソリューションズ):リチウムイオン電池用電解質の製造設備に375億円。完成後は年3,000トンの増産になる。資金は自己資金、借入金、助成金だ。

川崎製造所(マテリアルズ):構造改革関連投資に約163億円。事業を大きくする投資ではない。

当期は買収も行った。粘着剤・接着剤の会社であるイーテックを連結に含め、ソリューションズ事業の売上は5.1%増えた。主軸は買収より、自前の設備投資にある。

面接での使い方

志望動機で「電池材料に資金を集中する会社だから」と理由にできる。逆質問では、構造改革の具体的な中身と時期を聞ける。

1-3. 工場の完成は28卒の入社年度——投資期の現在地

28卒の入社は2028年4月だ。電池用電解質の設備は2028年12月に完了する予定で、入社した年度のうちに最大の投資が動き出す。

投資期の負担は数字に出ている。借入金などの有利子負債は1年で約4割増え、655億円になった。自己資金だけでは足りず、借りて投資している。

業績は減収減益だった。売上収益は2.3%減り、営業利益は175億円(8.0%減)になった。ROE(株主のお金でどれだけ稼いだかを示す指標)は4.5%から4.3%に下がった。

有報によると、設備投資で資産が先に増えた。ソリューションズ事業の資産は21.7%増えている。売上はまだ追いついていない。

直近は急回復している。2027年3月期第1四半期は、売上収益が1,213億円(19.8%増)、営業利益が121億円で約2.8倍になった。面接の時期には、この回復が続くかが話題になる。

面接での使い方

課題指摘では「ROEが低いのは投資が先行しているため」と原因まで語れる。逆質問では、新工場の売上がROEにいつ表れる想定かを聞ける。

1-4. 会社が「利益の測り方」を変えた

有報には、見落としやすい変更がある。事業ごとの利益(セグメント利益)の式を、「営業利益+持分法による投資損益」に変えたのだ。持分法による投資損益とは、他社と組んだ合弁会社の利益のうち、自社の取り分を指す。

成長事業には合弁が多く、営業利益だけでは実力を測れない。そこで会社は測り方そのものを変えた。

効果は数字に出ている。ソリューションズの営業利益は27.1%増だったが、セグメント利益は2.4%減だった。持分法で処理している投資に、減損損失(資産の価値が下がった分の損失)を計上したためだ。

面接での使い方

課題指摘で「営業利益は増えたが、合弁事業の減損が残った」と語れる。逆質問では、合弁事業の利益をどう伸ばすかを聞ける。

1-5. 働く側の事実——従業員4,880人、平均年収859万円

連結従業員は4,880人で、前期より195人増えた。提出会社の平均年齢は39.4歳、平均勤続は16.6年である。平均年間給与は859万円で、前事業年度より5.9%増えた。この給与は賞与を含み、60歳以降の従業員を含まない。

研究開発スタッフはグループ全体で約870名いる。従業員の約2割にあたる。研究部門の一つ、イオネル研究部は、電池向け電解質を世界へ供給するための製造技術を開発する。バイオ由来のアクリル酸は、2030年頃の事業化を目指している。

面接での使い方

志望動機で「研究開発に人を割く会社だから」と理由にできる。逆質問では、電池と環境対応のどちらに研究人員を厚く配置するかを聞ける。

第2章 化学業界の収益構造

2-1. スプレッドで決まる商売——価格を自分で決められない

化学メーカーの決算で最初に覚える言葉が、スプレッドだ。製品価格から原料価格を引いた差のことである。

日本触媒の当期は、この言葉が両方向に出る。マテリアルズでは「海外市況の下落に伴うスプレッド縮小」で減益になった。ソリューションズでは「スプレッド拡大」で増益になった。

理由は製品の性格にある。マテリアルズの製品は汎用品で、価格は国際市況で決まる。ソリューションズの製品は用途が絞られ、顧客に合わせて設計されるため、他社製品に置き換えにくい。

この差は利益率に表れる。営業利益率はマテリアルズが約3.7%、ソリューションズが約5.4%だ。

面接での使い方

課題指摘で「市況に左右される事業から、値決めできる事業へ移す変革だ」と説明できる。

2-2. 装置産業——売上が少し減ると、利益は大きく減る

化学メーカーは装置産業で、費用の多くが固定費だ。減価償却費、保全費、人件費は、作る量に比例しない。

当期は売上収益が2.3%減り、営業利益は8.0%減った。有報もマテリアルズの減益要因に「製造固定費の増加」を挙げている。この現象を営業レバレッジという。売上の変化が、利益ではより大きく動く仕組みだ。

裏返せば、売上が戻れば利益は一気に増える。1-3で見た第1四半期の回復がその例だ。単年の減益だけでこの会社を判断するのは早い。

面接での使い方

課題指摘で「減益の大きさは固定費の重さによる」と語れる。逆質問では、稼働率をどう保つ方針かを聞ける。

2-3. 技術を売る——ロイヤリティという稼ぎ方

化学メーカーには、製品を売る以外の稼ぎ方がある。技術のライセンスだ。

日本触媒の有報には、技術供与契約が9件並ぶ。相手はベルギー、インドネシア、シンガポール、ドイツの海外合弁会社だ。対価は頭金とランニングロイヤリティ(相手が売るたびに入る対価)である。ドイツの契約には、触媒供給契約がセットになっている。技術を教え、その技術に必要な触媒も売る。社名どおりの商売だ。

この収益は持分法投資損益や営業外に散りやすい。営業利益だけを見ると見落とす。1-4で利益の測り方を変えた理由も、ここにつながる。

面接での使い方

志望動機で「工場を建てずに稼ぐ触媒の技術力に惹かれた」と語れる。逆質問では、海外合弁からの収益をどう伸ばすかを聞ける。

日本触媒の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(主力事業が縮んでいく——それを会社が認めている/電池材料に賭ける——ただし市場は激変する/ROE 4.3%という水準——投資家の目線/原料も為替も、自分では決められない)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。

ここまでが無料パートです。売上の69.7%を占めるマテリアルズ事業が営業利益△20.7%の一方、30.3%のソリューションズ事業は+27.1%。そして投資は後者に集中しています——リチウムイオン電池用電解質に375億円(2028年12月完成)、対する主力側は「構造改革関連投資」162億円でした。ROEが4.5%から4.3%へ下がった原因も、3分解すると総資産回転率だけ——売上が2.3%減る中で総資産が6.7%増えた、つまり投資が先行しているからです。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。

  • 第3章 化学業界の構造的課題——主力事業が縮んでいく——それを会社が認めている/電池材料に賭ける——ただし市場は激変する/ROE 4.3%という水準——投資家の目線/原料も為替も、自分では決められない
  • 第3.5章 面接前に押さえる日本触媒の最新ニュース10本——375億円の新工場・イーテック買収・第1四半期の営業利益2.8倍まで
  • 第4章 内定者の正体——「化学が好き」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
  • 第5章 職種別キャリア分析——平均年収859万円の読み方と、研究開発870名の組織
  • 第6章 働く環境の現実——勤続16.6年の読み方、組合員3,184名、財務から見る雇用の安定性
  • 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問
  • 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生

よくある質問

Q. 日本触媒の平均年収はいくらですか。
A. 有価証券報告書(第114期)の「従業員の状況」によると、提出会社(単体)の平均年間給与は859万円です。連結の子会社や職種別の水準とは異なります。
Q. 日本触媒の従業員数は何人ですか。
A. 有価証券報告書(第114期)では、提出会社(単体)が2,573人、連結が4,880人です。新卒で入るのが本体か子会社かで、この数字の意味は変わります。
Q. このページの数字の出典は何ですか。
A. 日本触媒が金融庁に提出した有価証券報告書と決算短信です。EDINETで誰でも無料で原文を確認できます。
Q. 有料のnote記事では何が読めますか。
A. 業界の構造的課題、面接前に押さえる最新ニュース、内定者の選考と面接攻略、職種別キャリアと年収、IRを使った回答例と逆質問です(買い切り1,480円)。