THK(6481)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、THKを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「698億円の最終赤字は、自ら選んで出したものだった。ROE10%超のために自動車部品事業を売った会社」です。
有報の数字(第56期)
- 売上高
- 2,404億円
- 純利益
- -699億円
- ROE
- -21.7%
- 従業員数(連結)
- 13,036人
- 従業員数(単体)
- 4,016人
- 平均年間給与(単体)
- 648万円
- 平均年齢
- 41.5歳
- 平均勤続年数
- 19.2年
出典:THKの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
THKを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、THKに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはTHKの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、THK株式会社 有価証券報告書 第56期(2025年1月1日-2025年12月31日)、および2026年12月期第2四半期(中間期)決算短信(2026年8月5日公表)に基づきます。
THKの2025年12月期の最終赤字は、事故ではなく、会社が自分で選んで出した赤字である。
知っておきたいことは3つある。
THKは、ROE(株主から預かったお金に対する利益の割合)10%超を目標に掲げた。そのために自動車部品事業を売り、事業を絞り込んでいる。
赤字の大半は、事業の売却に伴って一度に出た損失である。続けていく事業の利益は、前期並みだった。
28卒が入社する2028年4月は、会社が「目標を実現する」と宣言した期間の途中にあたる。
この記事では、会社が何に賭けたのか、赤字の中身は何か、機械要素部品という商売がどんな構造かを確かめ、面接で語れる形にする。
第1章 THKは何に賭けているのか
1-1. 会社が自分で決めた目標——ROE10%超、自己資本3,000億円、営業利益400億円
有価証券報告書には、会社の現状認識が率直に書かれている。ROEが低迷し、株主の期待に応えられていない状況が続いていた、と会社自身が認めている。
2024年1月に寺町崇史氏が社長に就任し、同年11月に新しい経営方針を発表した。柱は次の3つだ。
ROE10%超の早期実現
自己資本を3,000億円程度に絞る
当期純利益300億円、そのために必要な営業利益400億円を稼ぐ
3つ目の柱は、「聖域なく事業の選択と集中を進める」ことである。
ROEは「純利益÷自己資本」で決まる。自己資本を減らしても、数字は上がる。会社は、この分母の側にも目標を置いた。
「世界トップの製品だから」で止めず、「資本の使い方を変える改革の最中にある点に惹かれた」と、志望動機に会社の賭けを入れられる。
1-2. 賭けは実行された——自動車部品事業の売却と株主還元
THKは、輸送機器事業(自動車部品)を売った。2026年2月にファンド系の特別目的会社「株式会社AP87」と契約し、連結子会社11社を譲渡した。譲渡は2026年6月1日に完了している。
売った理由について、有報は「儲かっていないから」とは書いていない。投じた資金に見合うリターンを将来も出せるか。それを厳しく調べた結果だと書く。
分母の側も、実際に動いた。2025年12月期に自社株を365億円分買い、年間配当は過去最高の246円とした。自己資本は1年で1,223億円減り、目標の3,000億円程度をすでに下回っている。
買収で事業を増やす会社とは、逆向きの動きだ。事業を外し、資本を縮め、残る事業に集中している。
課題指摘に使える。「事業を絞った今、残る産業機器事業で自分は何に貢献できるか」を語れば、会社の動きを踏まえた志望動機になる。
1-3. 698億円の赤字の正体——売却に伴う816億円の損失
2025年12月期の最終損益は、698億円の赤字だった。うち816億円は、輸送機器事業の売却に伴う損失である。
売ると決めた資産は、帳簿の値段ではなく、実際に売れる値段で測り直す決まりがある。帳簿より売値のほうが低かった。その差額が、一度に損失として出た。
この損失を除いた、継続事業だけの当期利益は101億円。前期の108億円とほぼ同じだ。本業の稼ぐ力は、落ちていない。
つまり、これまで見えていなかった含み損が、売却の決断で表に出た。業績の悪化とは性質が違う。
「赤字を承知で志望する理由」の根拠になる。「816億円は売却に伴う一過性の損失で、継続事業は101億円と前期並みと理解している」と答えられる。
1-4. 直近の中間決算——営業利益の目標400億円を、予想ですでに超えた
2026年8月5日に、2026年12月期の中間決算が公表された。営業利益率は14.9%。AI需要に伴う半導体関連の設備投資の拡大と、円安が追い風になった。構造改革によるコスト低下も効いている。
中間利益には、輸送機器事業の譲渡に伴う利益も含まれる。この分は一過性なので、実力とは分けて読む必要がある。
会社は通期予想を上方修正し、営業利益を480億円とした。1-1で見た目標の400億円を、すでに超える水準だ。
有報には「市場の成長には頼らず、自助努力で目標を達成する」とあった。実際には、市場の追い風が先に来た。改革の成果と追い風が混ざり、成果が見えにくくなっている。
逆質問に使える。「480億円の予想のうち、構造改革の効果と市場の追い風を、どう切り分けて見ていますか」と聞ける。最新ニュースの文脈も踏まえた質問になる。
1-5. 28卒が入る時期と、働く人の事実
有報は、2026年度までの2年間を構造改革期間とする。そのうえで、2027年度〜29年度の早期にROE10%超を実現すると書く。28卒の入社は2028年4月で、目標の期間の途中にあたる。
2025年12月末の連結従業員数は13,036人。この数字には、2026年6月に譲渡した輸送機器事業の11社が含まれる。入社する会社は、有報に載る姿より小さい。
平均年齢は41.5歳、平均勤続年数は19.2年、平均年間給与は約648万円。長く勤める人が多い会社だと読める。
志望動機で「改革の成果が問われる時期に入社する」と時間軸を示せる。逆質問では、改革後の組織で若手に期待する役割を聞ける。
第2章 機械要素部品メーカーの収益構造
2-1. LMガイドとは何か——有報が書くのは「世界のトップメーカー」
THKは、LMガイド(直線運動案内)を中心とした機械要素部品を作る。機械の動く部分を「滑らせる」代わりに「転がす」ことで、摩擦を減らす部品だ。工作機械、半導体製造装置、産業用ロボットなどに使われる。
ネット記事には「世界シェア◯%」という数字が出てくる。だが、有報にシェアの数字は書かれていない。有報の表現は「世界のトップメーカーとして」である。
志望動機では「有報に世界のトップメーカーと書かれている」と言えば、一次情報になる。出典を答えられないシェアの数字は、使わないほうがよい。
2-2. 売上が、顧客の設備投資で大きく動く
顧客は、機械を作るメーカーだ。顧客が設備投資を増やす年は注文が増え、減らす年は注文が止まる。自社の努力と関係なく、売上が動く。
売上収益は、2021年から2022年に23.7%増え、2023年には10.6%減った。2024年12月期以降は輸送機器事業を除いた数字になり、それ以前とは単純に比べられない。
志望動機に「安定した優良企業だから」と書くのは避ける。「波の大きい事業で、谷の年にも成果を出す側に回りたい」と、課題と貢献を結べる。
2-3. 4極で作って売る体制と、為替・関税
有報は成長戦略の柱に「グローバル展開」を挙げる。日本・米州・欧州・アジアの4極で、現地で作って現地で売る「需要地における販製一体体制」だ。為替の影響を減らし、納期を縮められる。その代わり、4地域それぞれに工場と在庫を持つ。
従業員は、日本5,634人に対して海外が7,402人。人員では海外のほうが多い。「日本の部品メーカー」という見方だけでは、面接で話が噛み合わない。
2026年中間期の増収要因には、円安が挙がっている。一方、コスト側では、2025年12月期に米国の関税政策が原価を押し上げる要因となった。円安と関税が、同時に動いている。
逆質問に使える。「円安と関税が同時に動くなか、4極の生産と販売のバランスをどう見ていますか」と聞ける。
THKの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(顧客が「機械メーカー」であることの天井/中国——最も伸びている市場が、最も読みにくい/「もう一つの柱」を手放した後に残るもの/人が減る国で、人が要る商売を続ける)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。THKが掲げる「ROE10%超の早期実現」と、その分母(自己資本3,000億円程度)・分子(当期純利益300億円、営業利益400億円)という目標。698億円の最終赤字が816億円の事業整理損失によるもので、継続事業の当期利益は101億円と前期並みだったこと。自己株式取得365億円と年間配当246円で自己資本を1,223億円削ったこと。そして2026年中間期に営業利益率が14.9%まで跳ね、通期予想が営業利益480億円に上方修正されたこと。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 機械要素部品業界の構造的課題——顧客が「機械メーカー」であることの天井/中国——最も伸びている市場が、最も読みにくい/「もう一つの柱」を手放した後に残るもの/人が減る国で、人が要る商売を続ける
- 第3.5章 面接前に押さえるTHKの最新ニュース10本——通期予想の上方修正(営業利益480億円)、輸送機器事業譲渡の完了、DOE8%と配当予想の修正まで
- 第4章 内定者の正体——「世界シェアトップの技術力に惹かれました」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収6,481,721円の読み方と、連結13,036人・単体4,016人の組織でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——勤続19.2年の読み方、女性役員比率18.1%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生