村田製作所(6981)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、村田製作所を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「最高売上でも横ばい」です。
有報の数字(第90期)
- 売上高
- 1兆8,309億円
- 純利益
- 2,339億円
- ROE
- 8.8%
- 従業員数(連結)
- 74,302人
- 従業員数(単体)
- 11,174人
- 平均年間給与(単体)
- 838万円
- 平均年齢
- 40.5歳
- 平均勤続年数
- 14.4年
出典:村田製作所の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
※本記事の決算数字は、村田製作所が2026年4月30日に発表した2026年3月期 決算短信および2026年6月24日提出の第90期有価証券報告書に基づきます(2026年7月執筆)。
この記事は、最低3回は読み返してほしい。
自ずと「なぜ村田製作所がこの決算になったのか」を自分の言葉で説明できるようになる。
そこまで来れば、面接で財務の話になったとき、面接官より深く踏み込める。
村田製作所を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、村田製作所に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。役員を目指すなら、自社がどの数字で評価されているかを知らないままでは話にならない。
結論から言う。村田製作所は、売上が過去最高でも自社の目標に届いていない会社であり、論点は「利益率」と「苦戦事業の立て直し」にある。
知っておきたいことは3つある。
売上は伸びたが、利益は伸びていない。2026年3月期の売上は5.0%増の1兆8,308億円で過去最高。だが営業利益(本業の利益)は0.8%増にとどまった。
事業ごとの温度差が大きい。部品を作るコンポーネント事業は高収益で、デバイス・モジュール事業は投じたお金に対して損が出ている。
稼ぎ場所が動いている。スマホ向けの売上は3.1%減り、AIサーバーなどコンピュータ向けは28.4%増えた。
この記事では、決算短信と有価証券報告書から、この3つがなぜ起きたのかを確かめる。
第1章 村田製作所は何に賭けているのか
1-1. 会社が自分で決めた3つの目標と、その現在地
会社は長期構想「Vision2030」(2021年度策定)と、その下の「中期方針2027」(2025〜2027年度)を掲げている。中期方針2027は、有報で「解像度を上げる3年」と位置づけられている。
この方針には、会社自身が決めた3つの数字がある。
売上:2兆円(当期は1兆8,308億円)
営業利益率(売上のうち本業の利益が占める割合):18%以上(当期は15.4%)
ROIC(税引後。事業に投じたお金に対する稼ぎの割合):12%以上(当期は9.7%)
3つとも未達だ。しかも利益率とROICは前期より下がり、目標から遠ざかった。有報は理由として、各国の通商政策や中東情勢などの地政学リスクを挙げている。
賭けの中身は3つある。1つ目は「AIがドライブするエレクトロニクス」での成長だ。2つ目は気候変動対策や供給網の強化。3つ目は人・組織力の強化である。
28卒が入社するのは2028年4月で、中期方針2027の終わった直後にあたる。目標の答え合わせは済み、Vision2030の最終3年が始まる時期だ。
志望動機では「最終3年に立ち会いたい」と時間軸で語れる。逆質問では「営業利益率18%に向けて、私の職種は何で貢献できますか」と聞ける。
1-2. 2026年3月期決算——過去最高の売上、ほぼ横ばいの利益
売上は5.0%増の1兆8,308億円。営業利益は2,818億円で、伸びは0.8%だった。営業利益率は前期の16.0%から15.4%へ下がった。親会社に帰属する最終利益は、ほぼ前期並みである。
決算短信は、利益が伸びなかった理由を3つ挙げている。
製品価格が下がった。電子部品は数量が増えても単価が下がる
表面波フィルタ事業で、約438億円の減損損失を計上した
生産量の増加による効率改善とコストダウンが、利益を下支えした
減損とは、買収した事業の価値が想定より下がり、その分を損として一括計上することだ。財務は厚く、自己資本比率(総資産のうち自分のお金の割合)は85%ある。
「増収増益でした」で止まらず、「増収だが営業利益は0.8%増。価格下落と減損が主因」と言える。短信を読んだ証拠になる。
1-3. 事業は2つ。片方が稼ぎ、片方が苦戦している
コンポーネント(コンデンサなどの部品)は売上の63.3%を占め、12.3%伸びた。デバイス・モジュール(通信用の部品など)は5.9%減っている。全社の伸びは、この2つの合計でしかない。
差が最も出るのが、事業別のROIC(税引前)だ。決算短信の参考欄に小さく載っている。
コンポーネント:22.4%(前期は21.2%)
デバイス・モジュール:△3.5%(前期は1.2%)
コンポーネントは投じたお金を大きく増やし、デバイス・モジュールは減らしている状態だ。なお全社の9.7%は税引後で、これらは税引前のため、基準が違う。単純には比べられない。
課題指摘に使える。「コンポーネントの高収益を保ちつつ、デバイス・モジュールをどう立て直すかが最重要課題だと理解しています」と言える。
1-4. 稼ぎ場所が、スマホからデータセンターへ動いている
用途別に見ると、通信(スマホなど)は構成比が前期の38.7%から35.7%へ下がった。一方でコンピュータ(サーバー、PC)は13.9%から16.9%へ上がった。
AIサーバーは、1台に載る積層セラミックコンデンサ(電気をためる小さな部品)の数が多い。この増加が、有報でもデータセンター向けの追い風として書かれている。
ただし通信は、いまも最大の用途だ。「AIサーバーの会社になった」と言い切ると、正確さを欠く。
志望動機で「スマホ依存から次の柱へ移る局面に関われる」と言える。逆質問では「コンピュータ向けの比率は、どこまで高める計画ですか」と聞ける。
1-5. 2期連続の減損が、経営方針に表れている
減損は2期続けて出た。前期はMEMS慣性力センサ事業で103億円、当期は表面波フィルタ事業で約438億円だ。減損の合計は、前期の約221億円から当期の約504億円へ膨らんだ。
理由は共通している。前期は「自動運転の高度化が当初の想定より緩やか」、当期は「通信市場の高周波化が当初の想定より緩やか」と説明している。市場が進む速さを、早く見積もりすぎたことになる。
Vision2030には、経営変革の1つに「仮説思考にもとづく変化対応型経営」がある。この項目は、自社の失敗から出てきた課題認識と読める。
計画の項目を暗記するだけでなく、「減損が2期続いたから、この項目があると理解しています」と実績と結びつけて語れる。逆質問にも使える。
第2章 業界比較——TDK・京セラ・太陽誘電との違い
数値はすべて2026年3月期の各社有価証券報告書から取っている。
2-1. 組織の大きさと待遇
連結従業員数は、TDKが106,545人、村田製作所が74,302人、京セラが73,856人、太陽誘電が20,604人だ。村田は単体では11,174人しかおらず、事業の大半は子会社と海外にある。
待遇は、平均年間給与(提出会社)で比べるとこうなる。
TDK:921万円
村田製作所:838万円(業界2位、前期比4.4%増)
京セラ:739万円
太陽誘電:661万円
村田の平均勤続年数は14.4年で、4社中で最も短い。平均年齢は40.5歳である。勤続の短さは、離職が多いことを意味するとは限らない。採用が増えて若手が増えても、平均は下がる。
転職サイトには年収を960万円台とする記述もあるが、有報の実数は838万円だ。
断定は避け、逆質問にする。「勤続年数が業界内で短いのは、採用拡大による若返りでしょうか」と聞ける。数字は有報の実数を使う。
2-2. 稼ぎ方の違い
村田は、コンポーネント(受動部品)に重心がある。構成比は63.3%、事業別ROICは22.4%だ。電子回路に必ず要る部品を、高いシェアと品質で供給して稼ぐ。
TDKは車載とエナジー(電池)の比重が高く、特定の用途や顧客への依存度が村田より高い。京セラはファインセラミックスから通信機器まで手がける多角化企業だ。太陽誘電はコンデンサで村田を追う立場で、規模は連結20,604人にとどまる。
「なぜTDKでなく村田か」への答えに使える。「受動部品の収益力が高く、この基盤の上で新領域に投資できる点に惹かれました」と、比較した跡を見せられる。
村田製作所の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(数量が伸びても単価が下がる/AI需要には、メモリ価格という落とし穴がある/EVの減速と、自動運転の遅れ/地政学リスクと為替)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。売上1兆8,308億円で過去最高、しかし営業利益は+0.8%。コンポーネントのセグメントROICは22.4%、デバイス・モジュールは△3.5%。ここから先は、この数字を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 電子部品業界の構造的課題——数量が伸びても単価が下がる/AI需要には、メモリ価格という落とし穴がある/EVの減速と、自動運転の遅れ/地政学リスクと為替
- 第3.5章 面接前に押さえる村田製作所の最新ニュース10本——減損、自社株買い1,500億円、情報漏洩、来期34.8%増益計画まで
- 第4章 内定者の正体——「世界シェアNo.1だから」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——年収の実数、コンポーネントとデバイスでの働き方の違い、市場価値
- 第6章 働く環境の現実——勤続年数14.4年の読み方、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問4本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生