東京精密(7729)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、東京精密を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「四半期の受注が+83.3%。営業利益率20.2%・平均年収827万円の会社が、純利益だけ減らした理由」です。
有報の数字(第103期)
- 売上高
- 1,668億円
- 純利益
- 247億円
- ROE
- 13.5%
- 従業員数(連結)
- 2,890人
- 従業員数(単体)
- 1,428人
- 平均年間給与(単体)
- 828万円
- 平均年齢
- 38.5歳
- 平均勤続年数
- 9.5年
出典:東京精密の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
東京精密を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、東京精密に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは東京精密の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社東京精密 有価証券報告書 第103期(2025年4月1日-2026年3月31日)、および2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月4日公表)に基づきます。
東京精密は、AI向け半導体の装置に賭け、その注文が急増している会社だ。
知っておきたいことは3つある。
会社が賭けているのは、AI向けの検査装置と加工装置、そしてそれを作る名古屋工場だ。半導体製造装置の部門が売上の大半を占める。
2026年3月期は、本業の利益が増えたのに純利益だけが減った。理由は、一時的な損益の差にある。
同じ会社でも、半導体製造装置は稼ぎ、計測機器は売上が増えても利益が減っている。
この記事では、会社が国に提出する有価証券報告書の数字で、この3点を確かめる。
第1章 東京精密は何に賭けているのか
1-1. 会社の賭けは「AI向けの検査装置・加工装置・新工場」
東京精密(ブランド名はACCRETECH)は、半導体製造装置と計測機器の2部門を持つ。売上の76.6%が半導体製造装置だ。
1つ目の賭けは、HBM向けのプローバである。HBMは、生成AI向けの半導体に欠かせない高性能メモリだ。プローバは、半導体チップが正しく動くかを検査する装置を指す。
2つ目は、AIパッケージング工程向けのグラインダだ。グラインダは、ウェーハ(半導体の板)を薄く削る装置である。チップを積み重ねる工程で必要になる。
3つ目は、生産能力そのものだ。決算短信は「長期的な加工装置需要の拡大を見据えた名古屋工場が竣工し、生産キャパシティが増加しました」と書いている。
志望動機で「AI向けの検査と加工、そして新工場に会社が賭けている点に惹かれた」と、賭けを3つに分けて語れる。
1-2. 受注は四半期で658億円、通期予想も引き上げられた
受注高とは、顧客から受けた注文の金額である。売上は過去の注文の結果で、受注は未来の売上にあたる。
2027年3月期の第1四半期(4〜6月)の受注高は658億円で、前年同期より83.3%増えた。半導体製造装置だけなら101.8%増で、ほぼ倍増だ。決算短信は、プローバの引合いが「極めて好調に推移した」と書いている。
2026年8月4日には、通期の予想が上方修正された。営業利益の予想は、わずか3か月で440億円に引き上げられた。
志望動機で「注文が積み上がる局面に参加したい」と言える。逆質問では「増えた受注を、どの部門の人員や設備で受けるのか」と聞ける。
1-3. 28卒が入るのは、受注を納め終えた後になる
受注は、いま積み上がっている。それを装置にして出荷し終えるのが、これからの1〜2年だ。28卒が入社する2028年4月は、その山を越えた後になる。
受注が倍になるということは、同じ幅で減る可能性もあるということだ。この会社には、売上が一度下がった年(第101期)もある。
だから面接で見られるのは、「いま好調ですね」という感想ではない。山を越えた後を、自分の頭で考えているかどうかだ。
逆質問で「好調が一段落した後の成長を、どう描いているか」と聞ける。課題指摘にもそのまま使える。
1-4. 営業利益は増えたのに、純利益だけが減った理由
2026年3月期の営業利益は13.6%増えた。営業利益率は20.2%で、売上のうち本業で残った利益の割合を指す。一方、純利益は3.5%減っている。
原因は、一時的な損益の差だ。前期は、固定資産の売却益が43億円あった。当期は、自社製品の不具合対策費18億円を特別損失(臨時の損失)に計上した。
本業の稼ぐ力は落ちていない。ただし、検査装置を作る会社が自社製品の不具合で費用を出した事実は、面接官にも見られる点になる。
課題指摘で「純利益の減少は一時的だが、不具合の再発防止が課題だ」と語れる。逆質問では、不具合対策の進み具合を聞ける。
1-5. 働く側の事実:平均年収827万円、勤続は9.5年
2026年3月31日現在の連結従業員数は2,890人。平均年齢は38.5歳、平均勤続年数は9.5年である。平均年間給与は827万円だ。
平均年齢に比べて、勤続年数が短い。新卒だけで組織ができている会社ではない、と読める。
志望動機で「経験者と新卒が混ざる組織で、早く戦力になりたい」と言える。逆質問では、新卒と中途の役割の違いを聞ける。
第2章 半導体製造装置・計測機器メーカーの収益構造
2-1. 装置は単価が高く、受注の波が業績に出る
半導体製造装置は、1台あたりの単価が高い。受注が大きく動き、四半期の業績も納期の偏りで揺れる。決算短信が売上は「第2四半期にやや偏重する」と書くのは、そのためだ。
開発費は先に払い終えている。台数が増えれば、増えた分がほぼそのまま利益に乗る。当期の半導体製造装置部門の営業利益率は22.2%だった。
逆回転もする。第101期(2024年3月期)は、売上が前期比8.3%減った。
課題指摘で「受注の波が利益を大きく動かす構造だ」と語れる。逆質問では、受注が落ちた局面の備えを聞ける。
2-2. 「検査」と「加工」の両方を持つ強み
半導体製造装置は、大きく2つに分かれる。プローバは検査する装置で、グラインダ・ダイサはウェーハを削る・切る加工装置だ。
決算短信は「プローバは韓国、台湾、中国など、グラインダ・ダイサ等の加工装置は台湾、中国、日本などで堅調でした」と書く。検査と加工では、顧客も地域も違う。両方を持つぶん、片方が落ちてももう片方で受けられる。
第1四半期には、中国での検査需要の拡大も名指しされている。
志望動機で「検査と加工の両方を持つ点に、事業の安定感を感じた」と言える。
2-3. 計測機器は、受注が伸びても利益が付いてこない
計測機器部門は、通期で増収だったのに営業利益が1.1%減った。営業利益率は13.7%で、半導体製造装置の22.2%と開きがある。
決算短信は全社の要因として、部材費と人件費の上昇を挙げている。単価の高い装置なら吸収できる上昇も、計測機器では吸収しきれていない。
人員は、半導体製造装置が1,666人、計測機器が1,002人だ。利益の差に比べて、人員の差は小さい。一方で、航空・宇宙・防衛という新しい顧客層も入ってきた。
課題指摘で「計測機器の利益率を上げる」を自分の貢献テーマにできる。逆質問では、増収減益への対策を聞ける。
東京精密の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(需要の波が、そのまま業績の波になる/特定顧客・特定地域への集中/自社製品の不具合という、避けられないリスク/資本が余っているという、贅沢な悩み)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。HBM向けプローバとAIパッケージング向けグラインダという2つの主力、名古屋工場の竣工、四半期受注+83.3%(半導体製造装置は+101.8%)。営業利益率20.2%・自己資本比率76.3%という財務。純利益だけが3.5%減った理由が、前期の固定資産売却益43億円と当期の製品不具合対策費18億円の往復であること。そしてROE低下の構造的な原因が、厚くなり続ける自己資本にあること。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 半導体製造装置業界の構造的課題——需要の波が、そのまま業績の波になる/特定顧客・特定地域への集中/自社製品の不具合という、避けられないリスク/資本が余っているという、贅沢な悩み
- 第3.5章 面接前に押さえる東京精密の最新ニュース10本——通期予想の上方修正(営業利益440億円)、受注ほぼ倍増、配当304円への修正まで
- 第4章 内定者の正体——「半導体に興味があります」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収8,276,412円の読み方と、連結2,890人・単体1,428人の組織でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——勤続9.5年の読み方、女性役員比率30.0%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生