長瀬産業(8012)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、長瀬産業を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「最高益、売上の7割は海外」です。
有報の数字(第111期)
- 売上高
- 9,728億円
- 純利益
- 331億円
- ROE
- 8.0%
- 従業員数(連結)
- 7,756人
- 従業員数(単体)
- 942人
- 平均年間給与(単体)
- 1,190万円
- 平均年齢
- 41.2歳
- 平均勤続年数
- 14.7年
出典:長瀬産業の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
長瀬産業を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、長瀬産業のグループに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは長瀬産業の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
「化学の知識を生かして、幅広い業界に素材を届けたい」。そう志望動機を話すと、面接官は「メーカーが直接売れば、商社は要らなくならない?」と返してくる。
知っておきたいことは3つある。
・長瀬産業本体の社員は942人で、平均年収は1,190.1万円。グループ全体では7,756人が働く。
・2026年3月期の売上は9,727億円、純利益は331億円で29.8%増えた。売上の70.2%は海外で上げる。
・会社は2028年度に、本業のもうけを500億円以上にする目標を掲げる。
※本記事の数値は、長瀬産業株式会社 有価証券報告書 第111期(2026年3月期)と、2027年3月期 第1四半期の決算短信・決算説明資料(2026年8月4日公表)に基づきます。
第1章 長瀬産業は何に賭けているのか
1-1. 会社が自分で決めた目標——時価総額1兆円への「基盤づくり」
長瀬産業(以下、NAGASE)は、1832年に京都・西陣で始まった化学品の専門商社だ。樹脂や薬品、半導体の材料、食品の素材を世界の約18,000社と取引し、自分の工場でも作る。
2026年5月、会社は2028年度までの中期経営計画(会社が3年ほど先の目標を宣言した計画。以下、中計)「Walk the Talk 2028」を出した。有報にはこう書いてある。「最終年度(2028年度)では、収益力の最大化を示す「営業利益500億円以上」、および資本効率性の向上を示す「ROE9.0%以上」の達成を財務KGIとして掲げます」。
営業利益は、売上から原価と経費を引いた本業のもうけだ。2026年3月期の実績は447億円。ROE(株主から預かったお金100円で、1年に何円の利益を出したか)は8.0%で、これを9%以上に上げる。
前の計画「ACE 2.0」は、営業利益350億円・ROE8.0%以上の目標を両方とも達成した。今回はその先に「時価総額1兆円の早期実現」を置く。社長は今の会社を「そのレベルからは程遠いのが現実」と書く。
面接での使い方:「ACE 2.0で営業利益447億円まで来たNAGASEが、次の計画を時価総額1兆円への基盤づくりと位置づけていると知りました。規模を広げる新しい取引づくりを、営業の側で支えたいです」
1-2. 減らす事業と増やす事業——「率の経営」と、買収で足した工場
減らす側は、この5年で手を付けた。採算が低い取引は条件を直し、整わなければ「商権返上も選択の一つ」とした。取引先との関係で持つ株は5年で300億円を売った。
増やす側は、買収で示した。主な買収は3つの分野にまたがる。
・米国の食品素材会社Prinovaを通じた、米国の甘味料商社とブラジルの香料・食品素材メーカー
・米国SACHEM社のアジアの半導体用の高純度な薬品の事業(取得額122億円)
・旧旭化成ファーマの診断薬の事業(2025年7月開始)
食品はPrinovaを核に同じ領域を買い足しており、ロールアップ(同じ領域の会社を次々に買って束ねる手法)に近い。一方、半導体と診断薬は技術と工場を手に入れる買収で、ロールアップとは読めない。
1-3. 28卒は、中計の最終年度に入社する
28卒が入る2028年4月は、中計の最終年度の始まりだ。目標の答え合わせの年に、1年目を過ごす。
1-4. 稼ぎ頭はどこか——売上の17.8%が、もうけの3割を稼ぐ
有報は事業を5つのセグメント(事業の区分)に分けて開示している。売上が一番大きいのは、医薬・食品・化粧品向けの「生活関連」で3,092億円ある。
ところが稼ぎ頭は、半導体や電子部品向けの「電子・エネルギー」だ。売上は全体の17.8%なのに、事業部門のもうけの32.7%を出した。
支えるのは、子会社のナガセケムテックスが作る変性エポキシ樹脂(半導体を包んで守る材料などになる樹脂)だ。AI半導体向けに伸びた。売上100円あたりのもうけは、電子・エネルギー8.6円、生活関連3.2円だ。
1-5. 働く側の事実——942人、平均41.2歳、平均年収1,190.1万円
有報の「従業員の状況」によると、単体(子会社を含まない長瀬産業1社だけの数字)の社員は942人、平均年齢41.2歳、平均勤続14.7年、平均年間給与は1,190.1万円で前期より4.7%上がった。連結(子会社を含むグループ全体)の7,756人のうち、本体は1割強だ。
新卒が入るのは長瀬産業本体だ。採用サイトによると、総合職の最初の配属先は東京本社・大阪本社・名古屋支店のいずれかで、コース別採用なら7つの営業事業部などへの初期配属が確約される。
1年目は指導員が2年間1対1で付き、日々の業務を一緒に進めながら、取引の実務を「基礎実務講座」で学ぶ。
面接での使い方:「942人の本体が、7,756人のグループと約18,000社の取引先をつなぐ会社だと理解しています。指導員と組む最初の2年で、仕入先と顧客の両方の事情を覚えたいです」
第2章 化学品専門商社の稼ぎ方
2-1. 川上と川下——化学メーカーと、製品をつくる会社の間に立つ
NAGASEは、化学メーカーなどから樹脂や薬品を仕入れ、塗料・自動車・電子部品・食品などのメーカーに売る。
商社の取り分は、売値と仕入値の差になる。2026年3月期の売上総利益(売上から仕入れや製造の原価だけを引いた残り)は、売上の19.3%にあたる。売上は2.9%しか増えていないのに、この取り分は8.3%増えた。
2-2. 売り方——「商社」と「工場」を両方持つ
NAGASEのもう1つの顔はメーカーだ。グループには、工場を持つ子会社がある。
・ナガセケムテックス(兵庫県たつの市など):半導体向けの変性エポキシ樹脂
・ナガセヴィータ(岡山市):旧林原。トレハロースなどの糖質や酵素
・Prinovaグループ(米国):食品素材の販売と、栄養食品の受託製造
会社はこれを「商社・製造・研究の3機能」と呼ぶ。冒頭の「商社は要らなくならないか」への答えの材料は、ここにある。作る機能を持ち、売上の70.2%を海外で上げる。メーカー1社で全部の国と業界に売るのは難しい。
面接での使い方:「NAGASEはナガセケムテックスやナガセヴィータの工場を持ち、商社・製造・研究の3機能を掛け合わせています。工場の技術を、約18,000社の取引先の困りごとにつなぐ営業をしたいです」
2-3. この構造で働く人——情報の目利きと、在庫の目利き
有報は商社の役割を「情報の目利き力を活かし、社会および顧客課題の探索とソリューションのマッチングを担います」と書く。要になるのは、顧客の困りごとを聞き取り、どこから何を持ってくるかを決める営業だ。
もう1つは在庫の管理だ。2026年3月期末の在庫は1,775億円。中東情勢の混乱では代替品をいち早く集める一方、値下がりに備えて在庫を絞った。
NAGASEの構造的課題は、4つに分けて第3章で扱う(メーカーの直販と中抜き/市況で揺れる利益/買った会社を稼がせる力/時価総額1兆円との距離)。
■同じ業界の会社も読んでおく(併願先と比べると、志望理由が具体的になる)
▶︎ 蝶理の企業解剖
https://note.com/irshukatsu/n/nf0be76a53577
▶︎ 兼松の企業解剖
https://note.com/irshukatsu/n/ne3acf779c811
▶︎ YUASAの企業解剖
https://note.com/irshukatsu/n/n20b8fadf95b6
■この会社の面接で落ちる場面
冒頭の「化学の知識を生かして、幅広い業界に素材を届けたい」のあと、面接官が「メーカーが直接売れば、商社は要らなくならない?」と返す。そこで言葉が止まる人が多い。止まり方は3つあり、第4章で1つずつ分けた。
■逆質問の1本目だけ、ここに置いておく
「電子・エネルギーは売上の17.8%で、事業部門のもうけの32.7%を出しています。2028年度の本業のもうけ500億円以上に向けて、半導体向けの伸びを商社の営業はどう取りにいくのでしょうか」
必要なのは、17.8%と32.7%、500億円の3つだけだ。残り6本も、記事の中で説明した数字だけで組んである。
■有料パートで手に入るもの
・面接前日の1枚まとめ(覚える数字3つ・逆質問3選・言ってはいけない一言2つ)
・頻出6問の回答例と、面接官の深掘り問答6組(第7章)
・志望動機:ES用400字2本・面接用1分2本
・「当社の課題は?」への答え2パターン
・逆質問7本(1本ずつ狙いつき)
・面接前に読むニュース10本(1本ずつ「面接で使うなら」)
・採用の事実5項目と同業比較表1枚(第4章)
■使う場面
ESを書く日に第7章の400字を、面接の前日に1枚まとめを開く。長瀬産業の面接1社分で1,480円、買い切りで、購入後はいつでも読み返せる。
■章ごとの中身
・第3章 化学品専門商社の構造的課題——メーカーの直販と中抜き/市況で揺れる利益/買った会社を稼がせる力/時価総額1兆円との距離
・第3.5章 面接前に押さえる長瀬産業の最新ニュース10本——第1四半期の本業のもうけ65.9%増・1株を4株に分割
・第3.6章 数字で補足——ROEの分解・5期の推移・事業の区分と地域・財務・株主還元・リスク
・第4章 内定者の正体——「化学の知識を生かして、幅広い業界に素材を届けたい」で落ちる理由、3つの視点、不合格パターン、採用の事実と同業比較
・第5章 職種別キャリア分析——平均年収1,190.1万円の読み方と、7つの営業事業部のキャリア
・第6章 働く環境の現実——勤続14.7年の読み方、女性役員比率7.7%の他社比較
・第7章 面接攻略——頻出6問と深掘り、ES用400字と面接用1分、逆質問7本
・第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生
ここまでが無料パートです。純利益は331億円で29.8%増え、稼ぎ頭は売上の17.8%しかない電子・エネルギーだ。