東京エレクトロン(8035)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、東京エレクトロンを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「営業減益でも最高益」です。
有報の数字(第63期)
- 売上高
- 2兆4,435億円
- 純利益
- 5,745億円
- ROE
- 29.6%
- 従業員数(連結)
- 20,236人
- 従業員数(単体)
- 2,309人
- 平均年間給与(単体)
- 1,380万円
- 平均年齢
- 43.1歳
- 平均勤続年数
- 14.7年
出典:東京エレクトロンの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
東京エレクトロンを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、東京エレクトロンに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは東京エレクトロンの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、東京エレクトロン株式会社 有価証券報告書 第63期(2025年4月1日〜2026年3月31日)に基づきます。2026年7月30日発表の2027年3月期 第1四半期決算も反映しています。
東京エレクトロンは、利益率が下がるのを承知のうえで、研究開発と採用に大きく投資している会社だ。
知っておきたいことは3つある。
日本最大の半導体製造装置メーカーで、売上の9割が海外だ。就活市場では平均年収1,380万円の会社として知られる。
第63期は、本業の利益が減ったのに、最終的な利益は過去最高だった。理由は株の売却益で、本業の強さとは分けて見る必要がある。
会社は中期経営計画の途中にいる。28卒が入社するのは、その目標年度の翌年だ。
この記事では、会社が何に賭けているかと、その賭けの現在地を、数字で確かめる。
第1章 東京エレクトロンは何に賭けているのか
1-1. 会社が自分で決めた3つの目標と、現在の位置
会社は中期経営計画で、売上3兆円以上、営業利益率35%以上、ROE 30%以上を掲げた。目標年度は2027年3月期だ。営業利益率は、売上のうち本業の利益が何%残るかを示す。ROEは、株主から預かったお金で、どれだけ利益を出したかを示す。
当期の実績は、売上2兆4,435億円、営業利益率25.6%、ROE 29.6%だった。ROEは目標にほぼ届いている。いちばん遠いのは営業利益率だ。
成長投資も決まっている。2025年3月期からの5年間で、研究開発に1.5兆円以上を使い、約1万人を採用する計画だ。従業員は約2万人なので、その半分にあたる人数を新たに採ることになる。
28卒の入社は2028年4月で、目標年度の翌年度にあたる。入社する頃には、3つの目標の結果が出ている。採用計画は2029年3月期まで続く。
志望動機で、会社自身が決めた目標と5年の採用計画に、入社直後から関わりたいと語れる。逆質問では、3つの目標の達成状況を聞ける。
1-2. 営業利益は減ったのに、純利益は過去最高
当期の営業利益は6,249億円で、前期比10.4%減った。営業利益は本業の儲けのことだ。一方、純利益は5,745億円で、過去最高を更新した。
このねじれの理由は、持っていた株の売却益だ。取引先などの株を持つことを「政策保有株式」という。その一部を売り、1,155億円の利益が出た。有報は、これを特別利益として説明している。
つまり、純利益には一度きりの利益が含まれている。「純利益が過去最高」という見出しだけでは、本業の強さは測れない。
課題指摘に使える。過去最高の純利益には売却益が含まれ、本業は減益だったと指摘したうえで、本業の利益にどう貢献したいかへつなげる。
1-3. 利益率が下がった理由は、研究開発を増やしたこと
営業利益率は25.6%で、前期より3.1ポイント下がった。原材料の値上がりと人件費の増加に加えて、研究開発費を増やしたことが理由だ。
研究開発費は2,778億円で、前期比11.1%増だった。売上がほぼ横ばいの年に、研究開発を増やしたことになる。利益率が下がるのは当然の結果だ。
目標の営業利益率35%との差は、9.4ポイントある。研究開発を削れば差は縮まるが、それは5年の投資計画を降りることを意味する。この会社の35%は、売上を3兆円まで伸ばし、研究開発費の負担を薄めて届かせる数字だ。
逆質問に使える。「35%は費用削減ではなく、売上拡大で目指す理解で合っていますか。現在の進み具合はどうですか」と聞ける。
1-4. 売上の9割が海外で、顧客は少数に偏る
海外売上比率は90.2%だ。地域別では中国が34.1%で最も大きく、韓国と台湾が続く。前期と比べると、中国が減り、韓国と台湾が伸びた。
顧客も偏っている。サムスン電子とTSMCの2社だけで、売上の28.0%を占める。世界の半導体投資が数社に集まる以上、装置メーカーの顧客も同じように偏る。
この偏りは、取引の大きさの裏返しでもある。ただし、顧客や地域の事情ひとつで、売上が大きく動くリスクも抱える。
課題指摘に使える。顧客と地域への依存度の高さを挙げ、特定の顧客や地域に偏らない技術の横展開に貢献したいと、志望動機へつなげられる。
第2章 半導体製造装置業界の収益構造
2-1. シリコンサイクル:好況と不況が交互に来る
半導体は、不足、大増産、供給過剰、投資凍結を、数年周期で繰り返す。この波をシリコンサイクルと呼ぶ。装置メーカーの売上は、半導体メーカーの設備投資そのものだ。そのため、波をさらに大きく受ける。
東京エレクトロンの第61期は、売上が17.1%減った。翌期には急回復し、過去最高へ戻っている。
一方で、データ社会、AI、脱炭素が半導体の需要を支えている。波はあっても、水位は上がり続けるというのが業界の共通認識だ。
志望動機に使える。「今が好況だから」ではなく、サイクルを前提にしても長期で成長すると考えた、と語る。
2-2. 顧客は世界に数社、そして売って終わらない
最先端の半導体工場は、1棟で数兆円かかる。建てられるのは、TSMC、サムスン、インテルなど、世界でも数社だ。顧客が少ないぶん、一度食い込めば取引は大きく長くなる。一方で、巨人たちの投資判断ひとつで売上が動く。
装置は、納入がゴールではない。部品交換、改造、中古装置の再生など、使われている間は収益機会が続く。同社はこれをフィールドソリューション事業と呼ぶ。市況が悪い年も、売上を下支えする柱として育ててきた。
逆質問に使える。「保守やサービスの収益は、市況が悪い年にどれだけ支えになりますか」と聞ける。
2-3. 競合との違い:広く強いか、狭く最強か
前工程装置の世界市場は、アプライドマテリアルズ、ASML、ラムリサーチ、東京エレクトロンの4社が主導する。ASMLは露光、アプライドとラムは成膜とエッチングに強い。東京エレクトロンは塗布現像で圧倒的な地位を持つ。
日本には、ディスコ、SCREEN、レーザーテックなどがある。各社は工程の一角を独占する戦略で、高い利益率を守っている。東京エレクトロンは総合力で戦う旗艦だ。利益率ではディスコに及ばないが、事業規模は桁が違う。
志望動機に使える。広く強い会社を選ぶ理由を、狭く最強の会社と比べて語れる。
東京エレクトロンの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(サイクルの宿命——業績連動の給与・配当は「下り」も連動する/中国34.1%と輸出規制——地政学が損益計算書に直結する/顧客集中——2社で28%、巨人の投資延期ひとつで数千億円が動く/人材獲得競争——5年で1万人、世界中で装置エンジニアを奪い合う)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。売上2兆4,435億円(過去最高)、営業利益6,249億円(△10.4%)、純利益5,745億円(過去最高・ただし売却益1,155億円のねじれ)、ROE 29.6%、中国比率34.1%——東京エレクトロンの強さと危うさを数字で確認しました。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 半導体製造装置業界の構造的課題——サイクルの宿命——業績連動の給与・配当は「下り」も連動する/中国34.1%と輸出規制——地政学が損益計算書に直結する/顧客集中——2社で28%、巨人の投資延期ひとつで数千億円が動く/人材獲得競争——5年で1万人、世界中で装置エンジニアを奪い合う
- 第3.5章 面接前に押さえる東京エレクトロンの最新ニュース10本——1Q売上+33.3%・上期上方修正・5年1万人採用まで
- 第4章 内定者の正体——「年収が高いから」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収1,380万円の読み方と、連結2万人・単体2,309人でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——定着率99.2%の読み方、女性管理職比率3.8%の他社比較、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——IRで差をつける志望動機3つの型・課題回答2パターン・逆質問7本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生