クレハ(4023)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、クレハを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「「2030年度目標を撤回します」と有価証券報告書に書いた会社。」です。
有報の数字(第113期)
- 売上高
- 1,617億円
- 純利益
- -107億円
- ROE
- -5.7%
- 従業員数(連結)
- 3,941人
- 従業員数(単体)
- 1,631人
- 平均年間給与(単体)
- 742万円
- 平均年齢
- 43.6歳
- 平均勤続年数
- 19.8年
出典:クレハの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
クレハを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、クレハに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはクレハの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社クレハ 有価証券報告書 第113期(2025年4月1日-2026年3月31日)、減損損失の計上、2026年3月期連結業績予想の修正、配当予想の修正および役員報酬(業績連動報酬)の不支給に関するお知らせ(2026年4月30日公表)、および2027年3月期第1四半期決算短信・業績予想の修正に関するお知らせ(いずれも2026年8月7日公表)に基づきます。
結論から言う。クレハは365億円の減損損失で赤字になったが、5つの事業はすべて黒字で、会社は目標を2035年度へ引き直した。
知っておきたいことは3つある。
第113期(2026年3月期)は、営業損失が185億円、当期損失が106億円だった。電池材料の見通しを誤ったことを、有価証券報告書が自ら認めている。
5つの事業の営業利益を合計すると145億円で、前期の100億円から増えた。赤字の主因は、事業全体の不振ではなく特定の設備の減損である。
会社は2030年度の目標を撤回し、2035年度を新しい到達点にした。2026〜2028年度の3年計画も新たに出している。
この記事では、赤字の中身と、会社が次に何へ賭けるのかを確かめる。
第1章 クレハは何に賭けて、何を失ったのか
1-1. 電池材料への賭けと、有報が認めた「見通しの誤り」
クレハは、家庭用ラップ「NEWクレラップ」で知られる化学メーカーだ。ただ、売上の最大は家庭用ラップではなく、機能製品事業である。
その中心に、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)がある。リチウムイオン電池の電極を、つなぎとめる材料だ。電気自動車が伸びれば、伸びる製品だった。
有価証券報告書は、前提としていた自動車メーカーのEV化戦略が大幅に見直され、PVDFの販売の伸びが著しく鈍化したと書く。
注目したいのは、その先だ。会社は内部要因を3つ挙げている。特定の技術・用途・地域への過度な依存、電池市場の変化の見通しの誤り、新商品の開発期間の見込み違いである。外部環境のせいにしていない。
課題指摘に使える。「内部要因を3つ認めた姿勢を評価する。そのうえで、見通しを外さない仕組みづくりに貢献したい」と語れる。
1-2. 365億円の減損と、その後の資本政策
減損損失とは、投資した設備が見込んだ利益を生まないと判断し、帳簿上の価値を切り下げる処理だ。クレハは第113期に365億円を計上した。ほとんどがPVDF事業の設備である。
建設仮勘定とは、まだ完成していない建設中の設備のことだ。PVDFには、この建設仮勘定が270億円あった。増設中の工場を、動かす前に落としたことになる。
会社は同じ日に、社内取締役の賞与と業績連動型株式報酬を不支給にした。減損と業績予想の下方修正に対する、経営責任を明確にするためだ。
同じ期に、会社は自己株式を390億円取得している。自己株式の取得とは、会社が自社の株を市場から買い戻すことだ。会社は資本効率の改善のためと説明する。その結果、自己資本の割合を示す親会社所有者帰属持分比率は、60.6%から48.8%へ下がった。
逆質問にできる。「減損と自己株式の取得は別の判断と理解している。持分比率が48.8%になった今、投資と株主還元の優先順位をどう考えるか」と聞ける。
1-3. 2030年度目標の撤回と、2035年度の姿
有価証券報告書は、新事業・新製品の収益貢献は概ね2030年以降になる見通しだと書く。そのため「2030年度目標を撤回し、新たに2035年度のありたい姿を設定しました」としている。
その手前の関門が、2026〜2028年度の中期経営計画「Technology to Value 2028」だ。2028年度にROE8%を達成し得る事業体制を、早期に作るという。ROEとは、株主から預かった資金でどれだけ利益を出したかを示す率である。
目指す姿は、機能製品と樹脂製品の2つの主力事業に、化学製品のライフサイエンス領域を加えた3事業体制だ。会社は「特定事業への過度な依存を回避」すると書く。PVDFで起きたことを繰り返さない、という意思表示と読める。
志望動機に使える。28卒が入社するのは2028年度で、ROE8%の目標年度にあたる。「その目標を一緒に達成する世代として働きたい」と結べる。
1-4. 5つの事業はすべて黒字だった
連結の営業損益は185億円の損失だ。だが5つの事業の営業利益を足すと、145億円になる。前期の100億円から増えている。差は調整額にあり、そこに減損損失が入っている。
機能製品事業は、赤字から黒字に転じた。PVDFの売上は減ったが、シェールオイル・ガス掘削用の樹脂加工品(PGA)などが伸びた。
会社は利益の測り方も変えた。減損や構造改革費用など、一時的な損益を除いた営業利益を「コア営業利益」と呼び、新しい管理指標にしている。ただし、除く項目は会社が決める。営業利益とコア営業利益の両方を見るのが安全だ。
課題指摘に使える。「赤字の主因はPVDFの減損で、事業全体の赤字ではないと切り分けて読んだ」と話せる。
1-5. 第1四半期の回復と、残る不安
2026年4〜6月(第1四半期)のコア営業利益は59億円で、前年同期より209.0%増えた。機能製品事業が牽引し、PVDFの売上も増加に転じている。
8月、通期のコア営業利益予想は100億円から120億円へ上方修正された。一方で、営業利益の予想は据え置かれた。
据え置きの理由として、会社は「固定資産関連費用等の発生可能性を織り込み」と書く。まだ費用が出る可能性を、会社自身が残している。
逆質問にできる。「コア営業利益だけを上方修正した理由と、織り込んでいる固定資産関連費用の範囲を知りたい」と聞ける。最新ニュースの話題としても使える。
第2章 クレハの収益構造
2-1. 5つの事業と、働く人の配置
連結の従業員は3,941人。最も多いのは、環境事業(廃棄物処理)などを担うその他関連事業の1,211人だ。
機能製品事業は、技術で戦う領域である。樹脂製品事業は、ブランドで戦う領域だ。このほかに、化学製品事業と、土木・建築工事の建設関連事業がある。化学メーカーでありながら、事業の幅は広い。
志望動機に使える。自分が入る事業が「技術」「ブランド」「環境」のどの型かを示し、そこに自分の経験を重ねて語れる。
2-2. 稼ぎ頭は「NEWクレラップ」の樹脂製品事業
樹脂製品事業の営業利益は69億円で、売上に対する利益の割合は18.8%。5つの事業のなかで最も高い。
売上は前期より減った。業務用の熱収縮多層フィルムの販売を、前年上期で終えたためだ。一方で、「NEWクレラップ」と釣糸「シーガー」は、売上も利益も増えている。
中期経営計画は、この事業に家庭用品のブランド力強化と、新ブランドの育成を求めている。
志望動機に使える。「PVDFの技術で賭け、ブランドで稼ぐ会社だ」と対比でき、新ブランド育成への貢献も語れる。
2-3. 第3の柱をつくる計画
会社は2035年度に、機能製品、樹脂製品、ライフサイエンス領域を含む化学製品の3事業の利益を、バランスの取れた構成にしたいとする。重点領域は、農薬、農業資材、医療材料だ。
慢性腎不全用剤「クレメジン」も、この化学製品事業にある。PVDFへの偏りを、10年かけて解消する計画と言える。
志望動機と逆質問に使える。「農薬・医療材料のどの領域から収益が立つ見込みか」と聞き、自分が貢献できる点を添えられる。
クレハの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(ROE8%という目標との距離/PVDFの需要回復は、社外の要因で決まる/減損は、まだ終わったと言い切れない/コンプライアンスと、エンゲージメント)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。365億円の減損損失(うちPVDFが339億円、そのうち建設仮勘定が270億円)を計上して当期損失106億円になったこと。それでも5つの事業すべてが黒字で、営業利益の合計は145億円と前期から45億円増えていたこと。有価証券報告書が自ら「見通しの誤り」「見込み違い」と書き、2030年度目標を撤回して2035年度へ設定し直したこと。赤字の期に390億円の自己株式を取得し、持分比率が60.6%から48.8%へ下がったこと。そして第1四半期にコア営業利益が209.0%増え、通期のコア営業利益予想が120億円へ上方修正されたこと。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 クレハが抱える構造的課題——ROE8%という目標との距離/PVDFの需要回復は、社外の要因で決まる/減損は、まだ終わったと言い切れない/コンプライアンスと、エンゲージメント
- 第3.5章 面接前に押さえるクレハの最新ニュース10本——減損365億円、役員報酬の不支給、2035年長期経営計画、第1四半期の回復まで
- 第4章 内定者の正体——「クレラップが好きです」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収7,418,000円の読み方と、連結3,941人・単体1,631人の組織でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——平均年齢43.6歳・勤続19.8年の読み方、女性役員比率22.2%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生