トクヤマ(4043)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、トクヤマを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「88年続けた事業を手放す」です。
有報の数字(第162期)
- 売上高
- 3,495億円
- 純利益
- 222億円
- ROE
- 8.2%
- 従業員数(連結)
- 6,390人
- 従業員数(単体)
- 2,652人
- 平均年間給与(単体)
- 794万円
- 平均年齢
- 41.5歳
- 平均勤続年数
- 16.8年
出典:トクヤマの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
トクヤマを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、トクヤマに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはトクヤマの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社トクヤマ 有価証券報告書 第162期(2025年4月1日-2026年3月31日)、2027年3月期第1四半期決算短信(2026年7月29日公表)、および2027年3月期通期業績予想および配当予想に関するお知らせ(2026年7月29日公表)に基づきます。
トクヤマは、増益だったセメント事業を手放し、借入で買った体外診断事業へ資源を移そうとしている会社である。
知っておきたいことは3つある。
営業利益(本業のもうけ)の21.0%を稼ぐセメント事業を譲渡し、製造を2028年度に止める検討に入った。
買収した体外診断事業の資金は借入で調達した。借金が急に増えた点が、この会社の弱みになる。
中期経営計画2025は4項目すべて未達で、次の計画は2026年5月29日に公表された。
この記事では、この3つがなぜ起きたかと、面接でどう聞けるかを確かめる。
第1章 トクヤマは何に賭けているのか
1-1. 会社が賭けた先は「電子」「健康」「環境」
トクヤマは総合化学メーカーだ。有報(会社が国に出す年次報告書)は、「電子」「健康」「環境」の3分野を「新たな成長市場と位置づけています」と書く。
この賭けは、第162期(2026年3月期)に2つの決断になった。
1つ目は買収だ。体外診断用医薬品(血液や尿を調べる検査薬)の事業を777億円で取得した。資金は長期借入金とコマーシャル・ペーパー(短期の社債)で調達し、有利子負債は46.4%増えた。
2つ目は撤退だ。セメント・固化材の国内販売事業を、2026年10月1日付(予定)で太平洋セメントへ譲渡する。会社は「成長事業への資源配分」を進めると書いている。
志望動機では、3分野へ資源を移す姿勢に共感した理由を語れる。逆質問では「借入で買った事業を、いつ収益につなげる計画か」を聞ける。
1-2. セメントは1938年、廃棄物を原料に変えるために始まった
セメント事業は1938年、創業事業のソーダ灰を作る際に出る廃泥と石炭灰を、再資源化するために始まった。高度経済成長期には、港湾・道路・住宅向けの需要で広がった。
だが国内需要は、1990年度の約8,629万トンをピークに減り続けている。2024年度には、セメントを焼く炉(キルン)3系列のうち1系列を止めた。
会社は「あるべき姿を慎重に検討」した結果として、譲渡を決めた。製造は2028年度を目途に止める検討に入っている。
志望動機では、縮む市場から出る判断を評価した理由としてこの経緯を使える。逆質問では「2028年度の製造停止後、拠点や人員をどうするのか」を聞ける。
1-3. 中期経営計画2025は4項目すべて未達だった
中期経営計画は、会社が数年先の目標を自分で決めた計画だ。2021年に決めた中計2025は、第162期が最終年度だった。結果は4項目すべて未達である。
売上高:計画4,000億円に届かなかった
営業利益:実績370億円、計画450億円
成長事業の売上高成長率:計画にわずかに届かなかった
ROE(株主のお金でどれだけ稼いだかを示す比率):実績8.2%、計画11%以上
会社は理由も1項目ずつ書いている。半導体市場の拡大の遅れ、国内の化学品とセメントの需要縮小などだ。未達のまま、2026年5月29日公表の中計2030に移った。
課題指摘では、会社自身が未達の理由を書いている点を引ける。逆質問では「中計2030は、未達だった項目をどう目標に反映したか」を聞ける。
1-4. 利益は伸びたが、足元は減益予想
第162期の営業利益は、前期比+23.5%の増益だった。半導体関連製品の販売が堅調で、製造コストの改善も進んだ。
ただ足元は逆風だ。2027年3月期第1四半期の営業利益は、前年同期比△22.9%だった。2026年7月29日に初めて開示された通期予想は、売上が増える一方で、営業利益は340億円(△8.2%)と減る。
課題指摘では「増益の翌期に減益予想」という流れを取り上げられる。逆質問では「売上が増えても利益が減る見通しの要因は何か」を聞ける。
第2章 総合化学メーカーの収益構造
2-1. 「電子」:半導体材料が利益の柱になった
電子先端材料事業は、営業利益156億円で全社最大だ。半導体ウエハの原料になる多結晶シリコン、乾式シリカ、放熱材などを扱う。
放熱材は、半導体製造装置向けを中心に販売数量が増えた。AI半導体やパワー半導体の熱を逃がす窒化アルミニウムフィラーも、能力を増強している。
海外では、マレーシアで韓国OCIグループと多結晶シリコンの半製品を作る。建設中のベトナム拠点と連携し、供給体制を築く計画だ。
志望動機では、利益の柱である半導体材料に関わりたい理由を語れる。逆質問では「マレーシアとベトナムの供給体制は、いつ頃の稼働を目指すか」を聞ける。
2-2. 「健康」と「環境」:買った事業と、育てている事業
ライフサイエンス事業の売上は493億円で、5事業のうち最も伸びた。体外診断事業の取得が主因だ。
歯科では、色素ではなく微細な構造で色を出す「構造色」を使った詰め物が、全国発明表彰の特許庁長官賞を受賞した。自社で育てた技術の例だ。
環境事業はまだ小さい。それでも太陽光パネルのリサイクル技術の事業化を進め、水素向けには食塩電解の技術を生かした大型電解槽の製作を始めた。
脱炭素では、2035年度に2019年度比60%削減の目標を新たに置いた。セメント停止を踏まえ、今後の目標と施策を見直すとも書いている。
志望動機では、自分の関心に近い分野(検査・歯科・リサイクル・水素)を選んで結びつけられる。逆質問では「セメント停止後、脱炭素の目標はどう見直されるか」を聞ける。
2-3. 働く側の事実:人員と給与
連結従業員は6,390人だ。有報の平均年間給与は約794万円で、これは提出会社(単体)2,652人の数字である。
提出会社の半数超は、特定の事業に紐づかない「全社(共通)」に属する。製造や研究開発の一部と管理部門がここに置かれている。
連結で最も人数が多いのはライフサイエンス事業だ。譲渡を決めたセメント事業の連結従業員は612人である。
事業の入れ替えで人員配置が変わる点は、課題指摘として挙げられる。逆質問では「セメントから成長分野への配置転換は、どう進めるのか」を聞ける。
トクヤマの構造的課題と追い風は、5つに分けて第3章で扱う(中期経営計画2025が4項目すべて未達だった/有利子負債が46.4%増え、自己資本比率が4.1ポイント下がった/営業利益の21.0%を稼ぐ事業を手放す/電子先端材料の好調は、半導体市況に依存している/女性役員比率18.0%、平均年収は8.46%増えた)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。営業利益95億円・前期比+27.9%と増益だったセメント事業を、2026年10月1日付で太平洋セメントへ譲渡し、2028年度を目途に製造を停止すると決めたこと。その事業が1938年に創業事業ソーダ灰の廃棄物を再資源化するために始まったこと。国内セメント需要が1990年度の8,629万トンをピークに減り続けていること。777億円で体外診断事業を買い、有利子負債が46.4%増えたこと。中期経営計画2025の目標が4項目すべて未達だったこと。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 トクヤマが抱える構造的課題——中期経営計画2025が4項目すべて未達だった/有利子負債が46.4%増え、自己資本比率が4.1ポイント下がった/営業利益の21.0%を稼ぐ事業を手放す/電子先端材料の好調は、半導体市況に依存している/女性役員比率18.0%、平均年収は8.46%増えた
- 第3.5章 面接前に押さえるトクヤマの最新ニュース10本——セメント譲渡の日程と理由、777億円の買収、中計2025の全項目未達、通期予想「未定」からの開示まで
- 第4章 内定者の正体——「電子・健康・環境の3分野に惹かれました」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収7,940,277円(+8.46%)の読み方と、全社共通1,401人という組織の特徴
- 第6章 働く環境の現実——平均年齢41.45歳・勤続16.82年の読み方、ホワイト500に5年連続、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——志望動機3つの型、課題回答2パターン、逆質問7本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生