第一三共(4568)の企業研究——有価証券報告書で読む

このページは、第一三共を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「売上が5年で2倍に」です。

有報の数字(第21期)

売上高
2兆1,230億円
純利益
2,599億円
ROE
15.8%
従業員数(連結)
20,171人
従業員数(単体)
8,009人
平均年間給与(単体)
1,098万円
平均年齢
45.0歳
平均勤続年数
19.9年

出典:第一三共の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。

はじめに

第一三共を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、第一三共に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは第一三共の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。

※本記事の数値は、第一三共株式会社 有価証券報告書 第21期(2025年4月1日〜2026年3月31日)、および2026年7月31日公表の「2026年度第1四半期決算説明会資料」(2026年3月期決算訂正を含む)に基づきます。

結論から言う。第一三共は、がん領域に大きく賭け、その先行投資で利益を抑えている会社だ。

知っておきたいことは3つある。

会社は2030年度に売上3兆円以上を目標に置き、そのうち2兆3,000億円をがん領域で稼ぐ計画だ。

2026年3月期は売上が増えたのに、利益は減った。原因は、まだ売れていない薬に使う研究開発費だ。

2026年7月31日に決算の訂正があった。ただし利益が増える方向の訂正で、売上は動いていない。

この記事では、会社が何に賭け、その代償が決算にどう出ているかを確かめる。

第1章 第一三共は何に賭けているのか

1-1. 3つの賭け——2030年度に売上3兆円、がん領域で2兆3,000億円

会社の賭けは、第6期中期経営計画(2026年度〜2030年度)に書いてある。目標は、売上収益3兆円以上、営業利益6,000億円以上だ。当期の売上収益は2兆1,230億円なので、5年で約1.4倍にする計画になる。

賭けは3つに整理されている。

・賭け1:がん事業の拡大。2030年度にがん領域の売上収益2兆3,000億円以上を目指す。そのために、5年で20以上の適応症(薬が使える病気の種類)の発売を目指す。
・賭け2:次の創薬技術づくり。有報は、薬を生み出す土台の技術を「BGT」と呼ぶ。いまのADCを「第1のBGT」と書いており、第2、第3を作る意思表示だ。
・賭け3:業務の効率化。AI活用で生産性を上げ、調達・外注の構造も見直すとしている。

売上3兆円のうち、約77%をがん領域で稼ぐ計画である。

面接での使い方

志望動機で「2030年度にがん領域2兆3,000億円という目標に関わりたい」と、数字つきで語れる。逆質問では「20以上の適応症の発売に、私の職種はどう関わりますか」と聞ける。

1-2. 賭けの証拠——1つの技術から2つの薬を出した

賭けは口だけではない。1つの技術から、すでに2つの薬が出ている。

DXd ADCは、抗体と薬剤を組み合わせた技術だ。この土台から、エンハーツとダトロウェイの2製品が発売済みである。ほかにも複数の候補が開発段階にある。

有報には、次の手も書かれている。乳がんで築いた地位を、肺がんでも広げる。ADC製品の安定供給のため、世界の供給網を作り直す。ADCは製造が難しく、作れなければ売れない。

会社は力を2つに分けている。新薬を速く確実に承認される力(R&D Excellence)と、承認後に世界の患者へ届ける力(Business Excellence)だ。

面接での使い方

志望動機で「薬を1つ作る会社ではなく、薬を生む技術を持つ会社だと理解した」と言える。供給網の再構築は、製造・調達系の職種が貢献を語る切り口になる。

1-3. 28卒の入社は第6期の3年目——第5期は目標を超えた

28卒の入社は2028年4月で、第6期中計の3年目にあたる。20以上の適応症という目標の、折り返し地点だ。

直前の第5期中計では、会社自身が掲げた目標を超えている。

・売上収益:目標1兆6,000億円に対し、実績2兆1,230億円
・がん領域の売上収益:目標6,000億円以上に対し、実績9,540億円
・ROE:目標16%以上に対し、実績16.9%

ROEとは、株主から預かった資金でどれだけ利益を出したかの割合だ。5項目すべてで目標を達成している。売上は5年で2.03倍になった。

面接での使い方

逆質問で「第5期は目標を大きく超えました。第6期の3兆円を決めるとき、何を最も慎重に見積もりましたか」と聞ける。

1-4. 決算訂正の中身——利益が増える方向の訂正だった

2026年7月31日、会社は2026年3月期の決算を訂正した。販売費及び一般管理費が290億円過大だったためだ。営業利益は2,291億円から2,580億円に増えた。売上収益は1円も動いていない。

読み解きのポイントは2つある。訂正されたのは費用の側だけで、事業の実態は揺らいでいない。また、過大に計上していた費用を戻す訂正であり、利益を大きく見せていたわけではない。

もちろん、訂正自体は褒められたことではない。だが「訂正=危ない会社」と短絡せず、中身で判断する姿勢が要る。

面接での使い方

最新ニュースの話題で「利益が増える方向の訂正と理解している」と整理して語れる。逆質問では「訂正を受けて、費用を確認する体制は何が変わりましたか」と聞ける。

1-5. 増収なのに減益——先行投資と自己資本比率

当期の売上収益は、前期比+12.6%の2兆1,230億円だ。一方、税引前利益は3,556億円から2,924億円へ、17.8%減った(訂正後)。

最大の要因は研究開発費である。4,660億円で、売上の21.9%にあたる。まだ売上になっていない薬の開発費だ。次の柱を育てる時期の減益であり、事業が悪化した減益ではない。

財務にも影響が出ている。自己資本比率は、5年前の60.8%から約42%に下がった。これは総資産のうち、返済しなくてよい自前の資金の割合だ。外部資金も使いながら資産を増やしている。投じた先が実らなければ、負担だけが残るリスクもある。

面接での使い方

課題指摘として「減益の原因は先行投資と理解している。回収の見通しをどう置いているのか知りたい」と言える。

第2章 製薬業界の収益構造

2-1. 研究開発費が重い理由と、特許切れの崖

薬は、世に出すまでに10年以上と数千億円がかかる。しかも大半は途中で失敗する。開発費は成功するかどうかに関わらず、その期の費用になる。だから第一三共の研究開発費は、売上の21.9%に達する。

もう一つの理由が特許切れだ。特許が切れると、後発医薬品(ジェネリック)が参入して価格が大きく下がる。これを「パテントクリフ(特許の崖)」と呼ぶ。

同業の武田薬品は、2026年3月期の営業利益が62億円、前期比98.2%減となった。主力品の独占期間が満了し、売上が減ったためだ。主力品が稼いでいるうちに次の柱を作らなければ、会社は続かない。

面接での使い方

「なぜ研究開発費が売上の2割を超えるのか」を、特許切れと結びつけて自分の言葉で語れる。志望動機では、この構造を理解したうえで挑戦したい、と述べられる。

2-2. がん領域9,540億円という一点集中

がん領域の売上は9,540億円で、売上収益の約45%を占める。この集中は強みであり、依存でもある。

強みは、資源を集中させて世界で戦える製品を生んだ点だ。第5期の目標6,000億円を、実績9,540億円で大きく超えた。リスクは、成長を主力2製品が牽引している点にある。この2つが想定どおり伸びるかが、業績を左右する。

面接での使い方

「強みはがんへの集中です。ただし同時に依存でもあると理解しています」と答えられる。課題指摘として、第2の柱をどう育てるかを逆質問にできる。

2-3. 働く側の事実——連結2万人の一部、主戦場は海外

連結従業員は20,171人で、うち第一三共株式会社(単体)は8,009人だ。単体は連結の約4割にあたる。平均年齢は45.0歳、平均勤続年数は19.9年である。

残る1万2千人あまりは子会社に所属している。主力製品の売上は米国・欧州が中心で、日本の会社でありながら稼ぎの主戦場は海外にある。海外拠点との協働は、日常的に発生する。

面接での使い方

「応募するのは連結2万人の一部、単体8,009人の枠だと理解している」と述べられる。逆質問では「海外拠点との協働は、入社何年目から増えますか」と聞ける。

第一三共の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(薬価という、下がり続ける前提/一点集中の裏側にあるリスク/提携という、もう一つの資金調達/為替、通商、そして各国制度)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。

ここまでが無料パートです。売上収益2兆1,230億円で5年2倍、しかし研究開発費4,660億円が重く増収減益。決算訂正で営業利益は2,291億円から2,580億円へ、当期利益も2,599億円から2,797億円へ増額され、ROEは16.9%になった。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。

  • 第3章 製薬業界の構造的課題——薬価という、下がり続ける前提/一点集中の裏側にあるリスク/提携という、もう一つの資金調達/為替、通商、そして各国制度
  • 第3.5章 面接前に押さえる第一三共の最新ニュース10本——決算訂正で利益290億円増、研究開発費4,660億円、がん領域9,540億円まで
  • 第4章 内定者の正体——「創薬で貢献したい」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
  • 第5章 職種別キャリア分析——平均年収の実数と、研究・開発・MRそれぞれのキャリア
  • 第6章 働く環境の現実——勤続19.9年の読み方、財務から見る雇用の安定性
  • 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
  • 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生

よくある質問

Q. 第一三共の平均年収はいくらですか。
A. 有価証券報告書(第21期)の「従業員の状況」によると、提出会社(単体)の平均年間給与は1,098万円です。連結の子会社や職種別の水準とは異なります。
Q. 第一三共の従業員数は何人ですか。
A. 有価証券報告書(第21期)では、提出会社(単体)が8,009人、連結が20,171人です。新卒で入るのが本体か子会社かで、この数字の意味は変わります。
Q. このページの数字の出典は何ですか。
A. 第一三共が金融庁に提出した有価証券報告書と決算短信です。EDINETで誰でも無料で原文を確認できます。
Q. 有料のnote記事では何が読めますか。
A. 業界の構造的課題、面接前に押さえる最新ニュース、内定者の選考と面接攻略、職種別キャリアと年収、IRを使った回答例と逆質問です(買い切り1,480円)。