ニチアス(5393)の企業研究——有価証券報告書で読む

このページは、ニチアスを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「10年連続で増配」です。

有報の数字(第210期)

売上高
2,519億円
純利益
316億円
ROE
13.9%
従業員数(連結)
6,424人
従業員数(単体)
1,930人
平均年間給与(単体)
760万円
平均年齢
40.9歳
平均勤続年数
13.9年

出典:ニチアスの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。

はじめに

ニチアスは、減収減益の年に翌期の大幅増益の材料と株主還元の転換を同時に示した、語りどころの多い素材メーカーだ。

知っておきたいことは3つある。

ニチアスは1896年創業の完全BtoB(企業向け)の素材メーカーだ。シール材、断熱材、フッ素樹脂製品を、プラントや半導体工場、自動車の内側に供給している。来期(2027年3月期)に創立130周年を迎える。

2026年3月期の売上高は2,519億円(前期比△1.8%)、営業利益は370億円(同△6.8%)で、減収減益だった。営業利益とは、本業で稼いだもうけのことだ。会社は次期に450億円を見込む。

会社の中身も動いている。自己資本比率は77.7%と高く、10年連続の増配を決めた。取引先などの株を持ち合う方針も、原則やめる方向に転換した。

この記事では、今回の減益が一時的なものか、競合のPILLARと何が違うのかを確かめる。

第1章 ニチアスを投資家目線で読む

ニチアスとはどんな会社か

ニチアスは、日本の保温・断熱分野のパイオニアとして創業した。現在は5つの事業を持つ。

プラント向け工事・販売:電力・石油プラントの保温工事とメンテナンス。売上高は795億円で、最大の事業だ。

工業製品:ガスケットやフッ素樹脂製品などを幅広い産業に供給する。同社が「マザー事業本部」と呼ぶ中核だ。

高機能製品:半導体・ディスプレイ製造向けの部品を手がける。景気の波を最も受けやすい。

自動車部品:エンジン周りのシール材や防音・防熱部品を作る。

建材:不燃の内装材や耐火被覆工事を担う。

働く側の事実も押さえておく。連結従業員数は6,424人で、単体は1,930人。単体の平均年間給与は約760万円で、前期比+4.2%だった。

面接での使い方

志望動機で「5事業のうちどこに関わりたいか」を語る土台になる。この規模と待遇を知っていれば、会社像の質問にも答えやすい。

減収減益の中身——一時的な谷か

落ち込みの中心は高機能製品だった。売上高は前期比△12.3%、利益は△32.5%だ。半導体製造装置向けの需要が弱かった。

一方で、受注残高は前期比+69.8%となった。受注残とは、注文を受けたがまだ納めていない分のことだ。当期の受注高も441億円(+8.4%)と増えている。

需要が消えたのではなく、納品が後ろにずれたとみられる。次期の営業利益450億円(+21.6%)という予想は、この積み上がりが支えだ。

コスト面の課題もある。新しい基幹システムの構築費用で、販売費及び一般管理費が5.9%増えた。この費用が利益率を押し下げた。

なお、2022年3月期から4期連続で増収増益だった。今回は初めての足踏みである。

面接での使い方

課題指摘に使える。「谷が一時的かを次期の実績で確かめたい」と述べ、「受注残はどう推移していますか」と逆質問にもできる。

財務の強さと株主還元の転換

自己資本比率は77.7%で、前期の74.5%から改善した。この比率は、返済不要の自己資金が全体の何割かを示す。高いほど借入に頼らず、不況に強い。

改善の一因は、2026年2月に行った自己株式の消却だ。自社株を消して株数を減らすもので、195億円(発行済株式の6.12%)にのぼる。余った資本を株主へ返す動きといえる。

配当は年164円で、前期の108円から56円増え、10年連続の増配となった。会社は総還元性向(利益のうち配当と自社株買いに回す割合)を50%以上とする方針だ。

もう一つの転換が、政策保有株式の原則ゼロ化だ。取引先との関係維持のために持つ株を指す。次期中期経営計画の終了時(2032年3月期)を目途に、全量の売却に努めるとしている。

面接での使い方

志望動機で「資本を成長にどう使う会社か」を問う材料になる。逆質問では、「売却で得た資金の使い道をどう考えていますか」と聞ける。

リスクは何か

第1のリスクは、半導体投資の波への依存だ。高機能製品の落ち込みがその例である。反転の兆しが業績に結びつくかは、2027年3月期の実績で分かる。

第2に、原材料の調達環境の変化がある。金属、フッ素樹脂などが業績の変動要因として挙げられている。

第3に、アスベスト(石綿)による健康被害への補償がある。有価証券報告書には、従業員や元従業員への補償金の支払いと、損害賠償請求の提訴を受けている旨が書かれている。断熱材という事業の性質上、長く向き合ってきた問題だ。詳しくは有料部で扱う。

面接での使い方

課題指摘に使える。リスクを自分の言葉で語れると、企業を冷静に見ている印象になる。アスベストは、会社の姿勢を確かめる逆質問の題材にもなる。

第2章 業界比較——高収益率競合PILLARとの差

ニチアスとPILLARの違い

同じフッ素樹脂製品・シール材を手がける競合に、日本ピラー工業(PILLAR)がある。2026年3月期の数字を並べる。

売上高:ニチアス2,519億円、PILLAR595億円

営業利益率:ニチアス14.7%、PILLAR20.4%

次期の営業利益予想:ニチアス450億円、PILLAR155億円

営業利益率とは、売上のうち本業のもうけが占める割合だ。規模はニチアスが4倍超だが、利益率はPILLARが5.7ポイント高い。PILLARは半導体・化学プラント向けに絞った専業で、「選択と集中」で高い収益を出している。

ニチアスは5つの事業に広げた総合力型だ。こちらは事業の分散でリスクを抑える。

面接での使い方

志望動機で「なぜPILLARではなくニチアスか」を問われたときの比較軸になる。

ニチアスの強み——分散と総合力

高機能製品が大きく落ち込んでも、他の事業が支えた。自動車部品の利益は+17.0%、建材は+91.8%と伸び、全社の営業利益率は14.7%を保った。

さらに、「断つ・保つ」という共通の技術を各事業に横展開している。工業製品で培った知見を、高機能製品や自動車部品に応用する構造だ。

会社自身も、収益性の引き上げを掲げている。中期経営計画「しくみ・130」は、2027年3月期の営業利益率を16.7%にする目標だ。現状の14.7%との差は2ポイントある。

面接での使い方

「分散の強さを生かしつつ、利益率の差をどう縮めるか」を自分の貢献と結びつけて語れる。逆質問では、「利益率16.7%の達成に向け、現場で最も効く打ち手は何ですか」と聞ける。

ニチアスの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(### 追い風——半導体投資サイクルの反転と脱炭素/### 逆風——人口減少とプラント市場の長期縮小、EV需要の鈍化/### アスベスト問題という歴史的な重み/### 技術的参入障壁)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。

ここまでが無料パートです。減収減益の裏で高機能製品の受注残高が69.8%増加、10年連続増配・自己株式消却195億円・株式分割・政策保有株式ゼロ化方針という株主還元とガバナンス改革が一気に進んだ2026年3月期。ここから先は、この数字を「選考で使える武器」に変える有料パートです。

  • 第3章 業界の構造的課題——### 追い風——半導体投資サイクルの反転と脱炭素/### 逆風——人口減少とプラント市場の長期縮小、EV需要の鈍化/### アスベスト問題という歴史的な重み/### 技術的参入障壁
  • 第3.5章 面接前に押さえるニチアスの最新ニュース8本——株式分割・自己株式消却・政策保有株式ゼロ化からアスベスト訴訟の動向まで
  • 第4章 内定者の正体——選考フロー、ES「なぜニチアスか」の組み立て、面接で聞かれること
  • 第5章 職種別キャリア分析——平均年収760万円の中身、技術系・営業系のキャリアパス
  • 第6章 働く環境の現実——有給休暇取得率83.8%・残業12.5時間の意味、女性活躍の課題
  • 第7章 面接攻略——財務分析を組み込んだ志望動機と逆質問例
  • 第8章 やましゃんの総合評価——5軸スコアリングと向き不向き

よくある質問

Q. ニチアスの平均年収はいくらですか。
A. 有価証券報告書(第210期)の「従業員の状況」によると、提出会社(単体)の平均年間給与は760万円です。連結の子会社や職種別の水準とは異なります。
Q. ニチアスの従業員数は何人ですか。
A. 有価証券報告書(第210期)では、提出会社(単体)が1,930人、連結が6,424人です。新卒で入るのが本体か子会社かで、この数字の意味は変わります。
Q. このページの数字の出典は何ですか。
A. ニチアスが金融庁に提出した有価証券報告書と決算短信です。EDINETで誰でも無料で原文を確認できます。
Q. 有料のnote記事では何が読めますか。
A. 業界の構造的課題、面接前に押さえる最新ニュース、内定者の選考と面接攻略、職種別キャリアと年収、IRを使った回答例と逆質問です(買い切り1,480円)。