日本製鉄(5401)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、日本製鉄を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「初の10兆円超え」です。
有報の数字(第101期)
- 売上高
- 10兆632億円
- 純利益
- 172億円
- ROE
- 0.3%
- 従業員数(連結)
- 138,453人
- 従業員数(単体)
- 32,102人
- 平均年間給与(単体)
- 909万円
- 平均年齢
- 41.3歳
- 平均勤続年数
- 19.5年
出典:日本製鉄の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
日本製鉄を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、日本製鉄に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは日本製鉄の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、日本製鉄株式会社 有価証券報告書 第101期(2025年4月1日〜2026年3月31日)に基づきます。2027年3月期の業績予想は2026年5月13日公表の会社計画です。
日本製鉄の第101期は、売上が初めて10兆円を超えたのに、最終的な利益がほぼ消えた「買収の年」の決算だ。
知っておきたいことは3つある。
売上収益は10兆632億円で、前期より15.7%増えた。一方、親会社の当期利益(最終的に残った利益)は3,502億円から172億円へ減った。
総資産は34.0%増の14兆6,606億円になった。自己資本比率(返さなくてよいお金が資産に占める割合)は49.2%から37.7%に下がった。
会社は2030年に向けた計画で、連結実力利益1兆円以上と、粗鋼1億トン以上を掲げている。粗鋼とは、鉄鋼製品の元になる鋼の生産量のことだ。
この記事では、利益が減った理由、会社が何に賭けているか、鉄鋼業がどう稼ぐかを確かめる。
第1章 日本製鉄は何に賭けているのか
1-1. 会社の賭け——利益1兆円以上、粗鋼1億トン以上
有価証券報告書(会社が法律に基づいて出す年次報告書。以下、有報)には、2025年12月に「2030中長期経営計画」を策定したと書かれている。目指す姿は「総合力世界No.1の鉄鋼メーカー」だ。
目標は2つある。連結実力利益1兆円以上と、グローバル粗鋼1億トン以上である。有報は「世界No.1の鉄鋼メーカーへの復権」と書く。かつての立場を取り戻す宣言だ。
賭けは国内と海外に分かれる。国内は自動車、インフラ、エネルギー・造船などの分野ごとに需要を取り、収益力を高める。海外は米国・欧州・インド・タイを重点地域に置き、自社の技術・ノウハウを移す。
背景の認識も有報に書かれている。国内は人口減少などで需要が減る見通しだ。世界は中国の高水準の生産で、供給過剰が続くとみている。
志望動機では、1兆円・1億トンという目標に自分がどの分野で貢献したいかを語れる。逆質問では、目標年度に向けた現在地を聞ける。
1-2. 賭けは数字に出ている——投資は2兆8,372億円
賭けは口先ではない。第101期の投資活動によるキャッシュ・フロー(設備や会社の購入に使ったお金の収支)は、2兆8,372億円の流出だった。前期の約6倍にあたる。
この投資には米国US Steelの買収が含まれる。買収は2025年6月に完了した。
その結果、総資産は34.0%増えて14兆6,606億円になった。自己資本比率は49.2%から37.7%へ、11.5ポイント下がった。大規模な投資を、外部からの調達で賄ったためだ。
課題指摘で「財務の余裕を削って海外に賭けた会社だ」と言える。自己資本比率の低下を、どう受け止めているかを逆質問にできる。
1-3. 利益が172億円まで落ちた理由と、会社の見通し
買収は、実行した年の利益を押し下げる。理由は3つある。買収の手数料などの費用、借入に払う利息、買った会社を自社に合わせる初期費用だ。
いずれも一時的な性質を持つ。会社の見通しも、それを前提にしている。
2027年3月期の当期利益の計画は2,200億円で、第101期の約13倍になる。US Steelからは1,000億円以上の利益貢献を見込む。
28卒の入社は2028年4月だ。2026年度から始まる計画の3年目にあたる。買った海外事業が利益を出せているかが、問われる時期だ。
「2,200億円の計画が、US Steelの貢献でどう達成されるか」を逆質問にできる。入社時期の計画を踏まえた志望動機も作れる。
1-4. 働く側の事実——連結138,453人
連結の従業員数は138,453人だ。このうち日本製鉄株式会社の単体は32,102人で、連結の23.2%にあたる。
事業別では、製鉄事業が119,447人で86.3%を占める。次に多いのは、システムソリューション事業の10,398人だ。鉄鋼会社の中に、1万人規模のIT部隊がいる。
職種選びの根拠にできる。「製鉄以外の事業で何を担いたいか」を、志望動機に入れられる。
第2章 鉄鋼業界の収益構造
2-1. 鉄は「価格差」と「重い設備」で稼ぐ
鉄鋼の利益は、売値と原料費の差で決まる。原料の鉄鉱石と石炭は国際市況で価格が動き、メーカーは買う側だ。
問題は、原料と製品の価格が同じタイミングで動かないことだ。原料が先に上がり、製品価格が後から追うと、その間は利益が圧迫される。この時間差が、利益を年ごとに大きく振れさせる。
設備も重い。高炉などは建設に数年、費用に数千億円かかり、一度つくれば簡単には止められない。減価償却費(設備の購入費を年ごとに費用にしたもの)や人件費は、生産量が減っても減りにくい。
利益の振れ幅は大きい。第97期の当期利益は6,373億円、第101期は172億円だ。買収に加え、市況の影響もある。
課題指摘で「売上が増えても利益が増えるとは限らない業界だ」と語れる。市況の振れにどう備えるかを逆質問にできる。
2-2. 4つの事業と、なぜ海外に出るのか
製鉄以外の3事業は、いずれも製鉄から派生している。エンジニアリング(5,331人)は、製鉄所づくりの技術を外部に売る。ケミカル&マテリアル(3,277人)は、製鉄の副産物を原料にする。システムソリューション(10,398人)は、製鉄所の生産管理を支える技術から生まれた。
海外に出る理由は、業界の構造から説明できる。国内の需要は、人口減少と製造業の海外移転で縮む。鉄鋼は重さのわりに単価が低く、遠くへ運ぶと採算が合わない。だから需要のある場所で作る必要がある。
買収は、現地に生産設備を持つ最短の道だ。自己資本比率の低下は、その判断の対価といえる。
志望動機で「海外に出るのは構造上の必然だ」と自分の言葉で説明できる。製鉄以外の事業を志望する場合の根拠にもなる。
日本製鉄の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(国内需要は、構造的に縮んでいく/脱炭素という、数兆円規模の宿題/通商政策と、地政学リスク/買収の後に必ず来るもの)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。売上収益10兆632億円で創業以来はじめて10兆円を超え、前期比15.7%増。一方で当期利益は3,502億円から172億円へ95.1%減、ROEは6.9%から0.3%へ、自己資本比率も49.2%から37.7%へ低下した。背景にあるのは総資産を1年で3兆7,181億円増やした大型買収で、投資キャッシュ・フローは△2兆8,372億円、財務キャッシュ・フローは+1兆8,863億円。会社は2027年3月期に当期利益2,200億円(今期の12.8倍)を計画している。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 鉄鋼業界の構造的課題——国内需要は、構造的に縮んでいく/脱炭素という、数兆円規模の宿題/通商政策と、地政学リスク/買収の後に必ず来るもの
- 第3.5章 面接前に押さえる日本製鉄の最新ニュース10本——初の売上10兆円、95.1%減益、総資産3.7兆円増、来期2,200億円計画まで
- 第4章 内定者の正体——「日本のものづくりを支えたい」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収908万6,300円の読み方と、連結13.8万人の組織でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——勤続19.5年の読み方、女性役員比率20.0%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生