セイコーエプソン(6724)の企業研究——有価証券報告書で読む

このページは、セイコーエプソンを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「財務目標3つ未達」です。

有報の数字(第84期)

売上高
1兆4,133億円
純利益
182億円
ROE
2.2%
従業員数(連結)
74,619人
従業員数(単体)
12,311人
平均年間給与(単体)
809万円
平均年齢
42.9歳
平均勤続年数
18.1年

出典:セイコーエプソンの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。

はじめに

セイコーエプソンを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、セイコーエプソンに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはセイコーエプソンの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。

※本記事の数値は、セイコーエプソン株式会社 有価証券報告書 第84期(2025年4月1日-2026年3月31日)、および2027年3月期第1四半期決算短信・自己株式取得に係る事項の決定に関するお知らせ(いずれも2026年8月5日公表)に基づきます。

結論:セイコーエプソンは、前の5年計画の財務目標を3つとも外し、その結果を自ら開示したうえで、次の10年に賭け直した会社だ。

知っておきたいことは3つある。

前の長期ビジョンでは、利益の効率を測る3つの目標がすべて未達だった。会社はその結果を表にして、有価証券報告書に載せている。

利益が大きく減った年だが、主な原因は本業の落ち込みではない。買収した会社の価値の見直しと、税金の扱いが大きい。

2026年3月に新しい長期ビジョンが決まった。28卒が入社する2028年は、その最初の3年間の最終年度にあたる。

この記事では、会社が自分で書いた課題と新しい目標を確かめ、面接で語れる論点にする。

第1章 セイコーエプソンは何に賭けているのか

1-1. 前の5年計画は、財務目標が3つとも未達だった

前の長期ビジョン「Epson 25 Renewed」は、2021年度から2025年度までの5年計画だった。その最終年度の結果が、有価証券報告書に表で載っている。

3つの指標の意味は次のとおりだ。ROICは投じた資金に対する稼ぎ、ROEは株主の資金に対する利益、ROSは売上に対する利益の割合である。

ROIC:目標7.0%以上 → 実績5.5%

ROE:目標8.0%以上 → 実績2.2%

ROS:目標7.0%以上 → 実績5.9%

会社は課題も2つに絞って書いている。1つ目は資本効率で、市場変化への「対応が遅れ」たと認めた。2つ目は成長領域の立ち上げで、「資源配分が十分でなく」成長も未達だったと書く。

外部環境だけのせいにしていない点が、この会社の書き方の特徴だ。

面接での使い方

逆質問に使える。「資本効率の改善と成長領域の立ち上げという2つの課題に、配属先の仕事はどう関わりますか」と聞ける。

1-2. 減益の中身は、本業より減損と税の影響が大きい

第84期は売上が増えたのに、当期利益は182億円まで減った。利益を段階ごとに追うと、理由が分かる。

売上から売上原価と販管費(販売や管理にかかる費用)を引いた事業利益は、6.5%減にとどまった。営業利益が大きく減ったのは、Fiery社ののれんの減損損失259億円による。

のれんとは、買収額のうち、相手の資産を上回って払った分のことだ。Fieryは前の計画期間中に買収した会社で、米国の関税政策などで設備投資が減り、事業計画を見直した。

当期利益では、法人所得税費用が86億円増えた。過去の赤字を将来の税金から引ける権利の一部を、資産に計上しなかったためだ。会社が将来の利益見通しを慎重にしたことを示す。

面接での使い方

課題指摘に使える。「ROEが下がった」で止めず、本業の落ち込みと、減損・税の影響を分けて話すと、利益の中身を読めると伝わる。

1-3. 新長期ビジョンは10年を3つに区切る

2026年3月13日、会社は長期ビジョン「ENGINEERED FUTURE 2035」と中期経営計画を策定した。

2026〜2028年度 Phase 1「成長に向けた事業基盤の変革」

2029〜2031年度 Phase 2「成長モデルへの転換を加速し完了」

2032〜2035年度 Phase 3「成長を生み続ける事業構造を確立」

Phase 1は、2028年度までにROIC 8.0%を目標に掲げる。ROICは前の計画でも目標にしていた指標だ。

28卒の入社は2028年4月で、Phase 1の最終年度にあたる。成長は2029年度からのPhase 2に置かれ、最初の3年は基盤を変える期間とされている。

同年8月5日には、成長投資と株主還元を両立させる方針のもと、自己株式の取得も決議した。

面接での使い方

志望動機で、Phase 1の最終年度に入社し、Phase 2の成長を担いたいと時間軸を語れる。逆質問では、2028年度の目標に向けた進み具合を聞ける。

1-4. 3つの事業の役割が変わる

現在の事業は3つある。プリンティングソリューションズが売上の7割を占める最大の柱だ。

マニュファクチャリング関連・ウエアラブルは、前期の損失から黒字に転換した。ビジュアルコミュニケーション(プロジェクター)は、セグメント利益が57.8%減った。中国市場の悪化と、欧米の教育市場での販売減が理由だ。

2026年度から、事業は4つに組み替わり、役割が分けられた。

成長エンジン:プレシジョンイノベーション(インクジェット、マイクロデバイス、微細合金粉末)

戦略領域:インダストリアル&ロボティクス(本格成長はPhase 2)

安定的な収益基盤:オフィス・ホームプリンティング、ビジュアル&ライフスタイル

最後の2つは、成長領域への投資を支える役割と明記された。固定費の圧縮を中心に、3年累計で260億円の収益改善を見込む。

面接での使い方

志望動機で、成長エンジンと収益基盤のどちらで貢献したいかを選んで語れる。逆質問は「配属先は成長領域ですか、収益基盤ですか」と聞ける。

1-5. 今期予想の当期利益は690億円、ただし前期の反動を含む

2027年3月期の通期予想では、当期利益が690億円と大きく増える見込みだ。第1四半期(2026年4〜6月)の四半期利益も、前年同期より増えた。

ただし前期は減損と税で利益が押し下げられていたため、増加の一部は反動だ。実力は事業利益で見るべきで、こちらも増益の予想である。

面接での使い方

最新ニュースの文脈として使える。「当期利益の増加は前期の反動を含む」と断ったうえで、事業利益の伸びを語ると、数字の読み方が確かだと伝わる。

第2章 「省・小・精」の収益構造

2-1. 大容量インクタンクが売れると、消耗品は減る

大容量インクタンクモデルとは、カートリッジではなく、本体のタンクにインクを補充する方式のプリンターだ。本体は高いが、インク代は安い。

この期は、この方式の売上が大きく伸びた。中東・アフリカの新興国、アジア、南米を中心に本体の販売数量が増えている。

一方で、インクカートリッジの販売減が大きく、消耗品の売上は前期並みにとどまった。自社の主力製品が、自社の別の製品を置き換えている形だ。新興国で市場を取るには必要な転換だが、収益構造は変わる。

面接での使い方

課題指摘に使える。「本体が売れても消耗品が減る構造を、どう収益につなげますか」と逆質問できる。

2-2. インクジェットと水晶の技術は、プリンター以外へ向かう

技術の核は、熱を使わず、材料を必要な場所に必要な量だけ吐き出す「マイクロピエゾ」というインクジェット方式だ。有価証券報告書は、電子部品、太陽光発電装置、バイオなどの産業プロセスを変革できる可能性があると書く。ヘッドだけでなく、駆動制御、インク、画像処理も合わせて提供できるとする。

もう一つの柱がマイクロデバイス事業だ。水晶の製造技術と半導体の設計を組み合わせ、高精度なタイミングデバイス(機器の動作の時間の基準をつくる部品)を作れる強みがある。水晶振動子はクオーツ時計の心臓部で、時計の会社だった歴史ともつながる。

この2つが、成長エンジンの中核に置かれている。

面接での使い方

志望動機で、プリンター会社ではなく、精密に材料を置く技術と水晶の技術を持つ会社として語れる。自分の専門と結びつけて、貢献を説明しやすい。

2-3. 連結74,619人のうち、提出会社は12,311人

連結従業員(子会社を含む全体)は74,619人だ。有価証券報告書を提出する会社(単体)は12,311人である。

平均年間給与は約809万円で、これは単体の12,311人の数字だ。単体で最も人数が多い部門は、プリンティングソリューションズの6,012人である。

面接での使い方

働く側の事実として使える。年収を話すときは、単体の数字だと断る。逆質問では、配属先が単体か子会社かを確認できる。

セイコーエプソンの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(ROIC 8.0%までの距離/成長領域は、まだ利益になっていない/買収したのれんが減損した/女性役員比率18.2%と、単体12,311人の意味)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。

ここまでが無料パートです。前長期ビジョン「Epson 25 Renewed」の財務目標3つ(ROIC 7.0%以上・ROE 8.0%以上・ROS 7.0%以上)が、5.5%・2.2%・5.9%で全部未達に終わり、その表が有価証券報告書に載っていること。売上が3.7%増えたのに当期利益が67.0%減った理由が、Fiery社ののれん減損259億円と繰延税金資産の取り崩しであり、事業利益の減少は6.5%にとどまること。会社が自ら「対応が遅れ」「資源配分が十分でなく」と2つの課題を書いたこと。新長期ビジョン「ENGINEERED FUTURE 2035」が10年を3つのPhaseに分け、Phase 1(2026〜2028年度)でROIC 8.0%を目指すこと。そして3年間で累計800億円の自己株式取得を予定していること。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。

  • 第3章 セイコーエプソンが抱える構造的課題——ROIC 8.0%までの距離/成長領域は、まだ利益になっていない/買収したのれんが減損した/女性役員比率18.2%と、単体12,311人の意味
  • 第3.5章 面接前に押さえるセイコーエプソンの最新ニュース10本——3目標の未達、新長期ビジョン、セグメント再編、自己株式800億円まで
  • 第4章 内定者の正体——「プリンターのエプソン」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
  • 第5章 職種別キャリア分析——平均年収8,087,000円の読み方と、連結74,619人・単体12,311人の組織でのキャリア
  • 第6章 働く環境の現実——平均年齢42.9歳・勤続18.1年の読み方、女性役員比率18.2%、財務から見る雇用の安定性
  • 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
  • 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生

よくある質問

Q. セイコーエプソンの平均年収はいくらですか。
A. 有価証券報告書(第84期)の「従業員の状況」によると、提出会社(単体)の平均年間給与は809万円です。連結の子会社や職種別の水準とは異なります。
Q. セイコーエプソンの従業員数は何人ですか。
A. 有価証券報告書(第84期)では、提出会社(単体)が12,311人、連結が74,619人です。新卒で入るのが本体か子会社かで、この数字の意味は変わります。
Q. このページの数字の出典は何ですか。
A. セイコーエプソンが金融庁に提出した有価証券報告書と決算短信です。EDINETで誰でも無料で原文を確認できます。
Q. 有料のnote記事では何が読めますか。
A. 業界の構造的課題、面接前に押さえる最新ニュース、内定者の選考と面接攻略、職種別キャリアと年収、IRを使った回答例と逆質問です(買い切り1,480円)。