川崎重工業(7012)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、川崎重工業を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「純利益が22.9%増」です。
有報の数字(第203期)
- 売上高
- 2兆3,113億円
- 純利益
- 1,082億円
- ROE
- 13.7%
- 従業員数(連結)
- 41,652人
- 従業員数(単体)
- 15,361人
- 平均年間給与(単体)
- 910万円
- 平均年齢
- 41.7歳
- 平均勤続年数
- 15.3年
出典:川崎重工業の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
川崎重工業を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、川崎重工業に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは川崎重工業の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
川崎重工業は、水素という未完成の事業に巨額の資金を投じながら、バイクや航空機などの既存事業で稼ぐ会社だ。
知っておきたいことは3つある。
会社が掲げる目標は、ROE(株主のお金に対する利益率)ではない。本業の利益率と、投じた資金に対する利益率だ。
設備投資の中心は水素だ。ただし、まだ実証の段階にある。
売上の最大はバイクなどの事業だ。その事業が米国の関税で大きく減益した。
この記事では、この3点を有価証券報告書の記述で確かめ、重工3社の中での位置づけまで整理する。
第1章 川崎重工業は何に賭けているのか
1-1. ROEを目標にしない会社
川崎重工業は、ROEを目標に置いていない。有価証券報告書が目標に挙げるのは、事業利益率と税後ROICの2つだ。
事業利益とは、本業で稼いだ利益のことだ。事業利益率は、売上のうち本業の利益が何割かを示す。会社は、これを2027年度までに8%、2030年度までに10%超にするとしている。
税後ROICは、事業に投じた資金が税引き後にどれだけ利益を生んだかを示す。目標は「資本コスト+3%以上」だ。資本コストとは、出資者や貸し手が最低限求める利回りのことをいう。
ROEは「結果として向上を図る」と書かれている。ROEは借入を増やせば上がるため、会社は本業の効率を目標に置いている。
当期の実績は次のとおりだ。
事業利益率:6.3%(2027年度の目標は8%)
税後ROIC:9.0%
ROE:13.7%
来期の見込みは、事業利益が1,451億円から1,700億円へ増える。一方、税後ROICは9.0%から8.6%へ下がる見込みだ。利益は増えるが、投じる資金がそれ以上に増えるためだ。
逆質問に使える。「事業利益率8%の目標年度は2027年度ですが、6.3%との差をどの事業で埋める計画ですか」と聞ける。
1-2. 約1,700億円の設備投資の中心は水素
会社の賭け先は、設備投資の中身に出ている。有価証券報告書によると、今後1年の設備投資は約1,700億円だ。生産の合理化や増産のための設備に加え、水素事業向けの設備が中心になる。
具体的には、液化水素の基地建設と、液化水素を運ぶ船の建造だ。ただし、これは「商用化実証」と書かれている。まだ売上を生む段階にはない。
1-1で見た税後ROICの低下は、これと関係している。水素に投じた資金は、当面は利益を生まないまま分母に乗るからだ。
会社は、注力する分野を3つに絞っている。
安全安心リモート社会(手術支援ロボットなど)
近未来モビリティ(無人ヘリコプタなど)
エネルギー・環境ソリューション(水素など)
提携も使っている。2025年4月には、米国で伊藤忠商事と合弁のファイナンス会社を設立した。買う側のローンまで用意する形だ。
志望動機に使える。「約1,700億円の中心が水素だと知り、実証から商用化へ進む局面に関わりたいと考えた」と語れる。収益化の時期は逆質問にもなる。
1-3. 売上最大はバイク、利益の柱は航空宇宙
当期の売上は2.31兆円だ。事業利益は1,451億円で、前期比+1.4%にとどまった。売上は+8.5%伸びている。
売上の最大は、バイクや四輪車などのパワースポーツ&エンジン事業で、構成比は29.5%だ。重工業の会社としては珍しい構造といえる。
この事業は、事業利益が前期から251億円減った。有価証券報告書は、米国の関税の上昇、競争の激化、増産投資による固定費の増加を理由に挙げている。
一方で、伸びている事業もある。精密機械・ロボット事業の受注高は2,785億円で、前期より292億円増えた。中国の建設機械向け油圧機器と、半導体製造装置向けロボットが好調だ。
航空宇宙システム事業は、事業利益が624億円で、全体の柱になっている。防衛省向けの機体と、ボーイング787の分担製造が中身だ。
課題指摘に使える。「バイク事業の減益は関税が主因だ。私は現地生産や調達の工夫で貢献したい」のように、自分の貢献につなげられる。
1-4. 不正事案への対応
川崎重工業は2024年に、潜水艦修繕事業と舶用エンジン事業での不正事案が判明した。2025年12月に、特別調査委員会の調査は完了している。
会社の対応は2つある。1つは、社長が委員長を務めるコンプライアンス特別推進委員会の設置だ。もう1つは、社長直下への「品質保証総括部」の新設だ。
2025年1月には、コンプライアンスを全てに優先するとした基本方針も制定した。この会社は、航空機のエンジンや鉄道車両など、止まれば人命に関わるものを作っている。
この件は面接で問われやすい。再発防止の体制を自分の言葉で説明できれば、課題を理解したうえで志望している根拠になる。
第2章 業界比較——重工3社の構造
2-1. 重工3社の規模と収益性
川崎重工業は、三菱重工業、IHIと並ぶ「重工3社」の一角だ。当期の川崎重工業の売上は2.31兆円で、事業利益率は6.3%だった。
三菱重工業は、売上が5兆円超の水準で、利益率は8〜9%の水準だ。IHIは、売上が1.5兆円の水準で、利益率は5〜6%の水準だ。いずれも水準としての目安である。
3社の戦略の違いは、事業の軸にある。三菱重工業は防衛とエネルギーが軸だ。IHIは民間航空エンジンとボイラ、物流システムが軸になっている。川崎重工業は、航空宇宙、エネルギー、ロボットに加え、バイク事業を持つ。
他社との比較に使える。「重工3社のうち、なぜ川崎重工業なのか」と聞かれたとき、利益率の位置と事業の軸の違いから答えられる。
2-2. 川崎重工業にしかない3つの軸
川崎重工業の独自性は、3つある。
第1に、カワサキモータースだ。バイク、ジェットスキー、四輪車を持つ重工企業は珍しい。消費者向けの事業があるため、業績の動き方が他の重工と異なる。
第2に、水素だ。世界初の液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を建造している。液化水素のサプライチェーン(製造から輸送、利用までの流れ)の実証も進めている。
第3に、ロボットだ。産業用ロボットや、手術支援ロボット「hinotori™」を展開している。1-3で見たとおり、半導体製造装置向けの需要が追い風になっている。
志望動機に使える。3つの軸から自分が関わりたい事業を1つ選び、1-2や1-3の数字とあわせて語ると説得力が出る。
川崎重工業の構造的課題と追い風は、5つに分けて第3章で扱う(### 課題1:米国関税政策とパワースポーツ事業/### 課題2:原材料価格と為替変動/### 課題3:コンプライアンス・ガバナンスの再構築/### 課題4:水素事業の早期収益化/### 課題5:労働力人口の減少と技能継承)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
有料記事で読めること
- 第3章 業界の構造的課題——### 課題1:米国関税政策とパワースポーツ事業/### 課題2:原材料価格と為替変動/### 課題3:コンプライアンス・ガバナンスの再構築/### 課題4:水素事業の早期収益化/### 課題5:労働力人口の減少と技能継承
- 第3.5章 押さえておくべき川崎重工業・重工業界の最新ニュース
- 第4章 内定者の正体
- 第5章 職種別キャリア分析
- 第6章 働く環境の現実
- 第7章 面接攻略——財務分析を組み込んだ回答例
- 第8章 やましゃんの総合評価