島津製作所(7701)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、島津製作所を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「売上5,607億円で過去最高。それでも第1四半期は、主力の計測機器が15.2%の減益だった」です。
有報の数字(第163期)
- 売上高
- 5,607億円
- 純利益
- 605億円
- ROE
- 11.4%
- 従業員数(連結)
- 14,649人
- 従業員数(単体)
- 3,779人
- 平均年間給与(単体)
- 924万円
- 平均年齢
- 43.9歳
- 平均勤続年数
- 18.5年
出典:島津製作所の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
島津製作所を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、島津製作所に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは島津製作所の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社島津製作所 有価証券報告書 第163期(2025年4月1日-2026年3月31日)、および2027年3月期第1四半期決算短信(2026年8月6日公表)に基づきます。
島津製作所は、装置を売り切る会社から、使われ続けることで稼ぐ会社へ軸足を移している。知っておきたいことは3つある。
会社が賭けているのは、4つの注力領域と「リカーリング」だ。リカーリングとは、消耗品や保守で継続的に稼ぐ事業のことである。新しい中期経営計画では、これがコア事業に入った。
2026年8月6日、会社は経営指標を営業利益から「のれん等償却前営業利益」に変えた。買収で生じた「のれん」の償却費を足し戻した利益である。買収を前提にした経営への切り替えと読める。
売上は過去最高だが、第1四半期は主力の計測機器が減益だった。地域別では中国だけが減っている。
この記事では、この3点を決算の数字で確かめ、面接で語れる形にする。
第1章 島津製作所は何に賭けているのか
1-1. 3つの賭け——4つの注力領域、重点事業、リカーリング
島津製作所は、分析計測機器を中心とした会社だ。「測る」「見る」「真空にする」技術を売っている。計測機器事業の売上は3,649億円で、全体の65.1%を占める。
1つ目の賭けは、ヘルスケア、グリーン、マテリアル、インダストリーの4注力領域だ。会社はこの4つで社会課題の解決に取り組むとしている。
2つ目は重点事業である。決算短信は、液体クロマト分析、質量分析、ガスクロマト分析、試験機、ターボ分子ポンプの5事業を挙げる。新しい中期経営計画ではコア事業が絞られた。試験機とターボ分子ポンプが外れ、リカーリング事業が入っている。
3つ目がリカーリングだ。会社の定義は「試薬、培地、カラムなどの消耗品や、機器のメンテナンスサービスを提供する事業」である。計測機器のリカーリングを統括する新組織も設立した。
志望動機に使える。4領域のどこに関心があり、コア事業のどれに関わりたいかまで言うと、根拠が具体的になる。
1-2. 賭けは口先ではない——体制の組み替えと指標の変更
会社は「地産地消」の開発・生産・販売体制を目指している。1年で3つの機能すべてに手を入れた。
開発:北米R&Dセンターの新拠点をサンフランシスコに設立
生産:中国でターボ分子ポンプの生産拠点を立ち上げ
販売:国内の販売子会社を統合し、インド、オーストラリアにも新会社を設立
買収の成果も出ている。北米の売上増には、Zef Scientific, Inc.の業績が貢献した。同社はマルチベンダーサービス、つまり製造元を問わず一括でアフターサービスを行う事業を持つ。他社製の装置まで保守する形で、リカーリングを広げる手段になる。
買収でのれんが増えれば、その償却費が営業利益を押し下げる。だから会社は「のれん等償却前営業利益」で見る。2026年度から新中計が始まり、28卒が入社する2028年4月はその3年目にあたる。
志望動機と逆質問に使える。「買収した事業が3年目にどこまで統合されているか」を、自分の関心として聞ける。
1-3. 売上は過去最高、営業利益は小幅な伸び
2026年3月期(第163期)の売上は5,607億円(前期比+4.0%)で、過去最高を更新した。一方、営業利益は737億円(+2.8%)にとどまる。売上の伸びより小さい。
医用機器は、売れ筋の構成が変わって利益が大きく伸びた。会社はこれを「プロダクトミックスの良化等」と説明している。主力の計測機器とは温度差がある。
課題指摘に使える。「売上は伸びても、利益の伸びは小さい。そこをどう変えるか」という切り口で、自分の貢献を語れる。
1-4. 第1四半期は過去最高、それでも主力は減益
2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月)の売上は1,305億円で、過去最高だった。決算短信は、円安による押し上げ効果もあったと書く。
ところが主力の計測機器では、売上は増えたのにセグメント利益が15.2%減った。理由は、中東情勢による売上遅延と、部材価格の高騰である。インドでは、中東情勢の影響で質量分析システムが減少した。
それでも会社は通期予想を、売上6,200億円(+10.6%)へ上方修正した。
逆質問に使える。「主力の減益要因である部材価格の高騰に、どう対応していくのか」と聞ける。全社は過去最高、主力は減益、という2点を同時に語れる学生は少ない。
1-5. 働く側の数字
2026年3月31日現在の数字は次のとおりだ。
連結従業員数:14,649人
提出会社(単体):3,779人
平均年齢:43.9歳
平均勤続年数:18.5年
平均年間給与:924万円(前年度比+2.5%)
勤続18.5年は、長く働く人が多い会社であることを示す。給与は前年度から上がっている。
志望動機に使える。長く働く人が多い会社で、自分はどう成長したいかを語れる。逆質問では、若手に任される仕事の範囲を聞ける。
第2章 分析計測機器メーカーの収益構造
2-1. 装置と、その後に続くもの
島津製作所の商売は、装置を納めて終わりではない。分析装置は、使うたびに試薬やカラムなどの消耗品を消費する。精密機器なので、定期的なメンテナンスも要る。
装置の販売は、顧客の予算がついた年にしか起きない。だが、すでに納めた装置は使われ続ける。消耗品とメンテナンスの売上は、景気の波を受けにくい。会社がリカーリングをコア事業に格上げした背景は、ここにある。
顧客の研究室には、複数メーカーの装置が並んでいる。他社製まで保守するマルチベンダーサービスは、その全体を取りにいく手段になる。
志望動機に使える。「景気に左右されにくい収益を育てる事業に関わりたい」と、事業の仕組みから語れる。
2-2. 営業利益と経常利益は別物
営業利益は本業の利益だ。経常利益は、それに利息や為替などの損益を加えたものである。2026年3月期は、営業利益737億円に対し、経常利益は827億円だった。経常利益のほうが大きい。
第1四半期も同じ構図で、経常利益の伸びは営業利益を大きく上回った。海外売上の多い会社では、為替が営業外の段階に効く。
会社自身もそれを承知している。通期予想では、営業利益は伸びる一方、経常利益は810億円(△2.1%)と減る見通しだ。本業は伸びるが、営業外の追い風は続かないと置いている。
課題指摘に使える。「利益の伸びを営業外の要因で語らず、本業の営業利益で見ています」と言える。数字の読み方を示す材料になる。
2-3. 中国という、最大にして読みにくい市場
中国の売上は672億円で、日本を除けば最大の市場だ。そして地域別では、中国だけが減っている(△0.7%)。
決算短信は、民間市場の停滞で減少したと説明する。一方で、製薬向けの分析システムは増え、政府の経済対策で大学向けの需要も増えた。民間が止まり、政府と製薬が支えている構図だ。
分析機器は研究開発や品質管理に使われる。顧客の景況感に敏感な商売である。
課題指摘と逆質問に使える。「中国の民間市場が戻らない場合、どの顧客層を伸ばすのか」と聞ける。
島津製作所の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(顧客の研究開発予算に、すべてが乗っている/部材価格と、地政学/資本が厚くなり続けている/装置から、サービスへ移りきれるか)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。4つの注力領域と5つの重点事業、そして新しい中期経営計画でコア事業に格上げされたリカーリングビジネス。経営上の重要な指標を「営業利益」から「のれん等償却前営業利益」へ変更したこと。ROEが5期で13.2%から11.4%へ下がり、自己資本比率が5期連続で上昇して76.6%(第1四半期末78.7%)になっていること。そして第1四半期は全社が過去最高でも、主力の計測機器事業は15.2%の減益だったこと。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 分析計測機器業界の構造的課題——顧客の研究開発予算に、すべてが乗っている/部材価格と、地政学/資本が厚くなり続けている/装置から、サービスへ移りきれるか
- 第3.5章 面接前に押さえる島津製作所の最新ニュース10本——通期予想の上方修正、指標の変更、Zef Scientific買収の貢献まで
- 第4章 内定者の正体——「ノーベル賞の会社だから」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収9,240,736円の読み方と、連結14,649人・単体3,779人の組織でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——勤続18.5年の読み方、女性役員比率27.3%、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——財務を組み込んだ回答例と逆質問3本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生