キヤノン(7751)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、キヤノンを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「カメラは売上の23%」です。
有報の数字(第125期)
- 売上高
- 4兆6,247億円
- 純利益
- 3,321億円
- ROE
- 9.7%
- 従業員数(連結)
- 165,547人
- 従業員数(単体)
- 22,921人
- 平均年間給与(単体)
- 882万円
- 平均年齢
- 44.3歳
- 平均勤続年数
- 18.9年
出典:キヤノンの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
キヤノンを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、キヤノンに勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはキヤノンの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、キヤノン株式会社 有価証券報告書 第125期(2025年1月1日〜2025年12月31日、米国会計基準)に基づきます。2026年7月27日発表の2026年12月期 中間決算も反映しています。
キヤノンは「カメラの会社」ではない。複合機・プリンターで稼ぎながら、次の柱への乗り換えを急ぐ会社だ。
知っておきたいことは3つある。
売上の53.8%はプリンティング(複合機・プリンター)だ。カメラなどのイメージングは22.8%にとどまる。
第125期の純利益は3,321億円で、前期の2.08倍になった。ただし前期に1,651億円の「のれん減損」があった。買収で上乗せして払った分を、価値が下がったと認めて費用にすることだ。
2026年から新5か年計画「フェーズⅦ」が始まった。メディカル、ネットワークカメラ、半導体製造装置を「第3の柱」にしようとしている。
この記事では、会社が何に賭け、その賭けが数字にどう出て、業界でどんな位置にあるかを確かめる。
第1章 キヤノンは何に賭けているのか
1-1. 3つの賭けと、28卒が入る年
有報はまず、前の5か年計画(フェーズⅥ)を振り返っている。売上目標の4兆5,000億円は1年前倒しで達成した。一方、営業利益率12%の目標は未達だった。営業利益率とは、売上のうち本業で残る利益の割合だ。
未達の理由を、有報は人件費や関税だけにしていない。プリンティングとカメラへの依存が大きく、どちらも成熟した市場にある、と構造の問題も認めている。
新計画フェーズⅦの賭けは3つだ。
販売・生産・メディカルの3つの構造改革。販売は欧州の体制見直しを2028年までに終える。生産は自社生産を付加価値の高い製品に絞り、海外拠点を集約する。メディカルは2026年にキヤノンメディカルシステムズを統合し、赤字事業・子会社を整理する。
メディカルとインダストリアルなど、成長領域への軸足の移動。
宇宙関連ビジネスへの本格参入と、AIを使った新しいビジネスの創出。
28卒の入社は2028年4月だ。フェーズⅦの3年目で、欧州の販売改革が完了する年と重なる。
志望動機では「12%に届かなかった会社が、次の5年で何を変えるかを内側で見たい」と語れる。逆質問では「欧州の販売改革が完了する2028年に、新人はどんな役割を担うか」と聞ける。
1-2. 賭けは数字に出たか——メディカルは黒字転換、最大事業は減収減益
メディカルの営業損益は、前期の△1,404億円から328億円の黒字に変わった。有報は「メディカル事業革新委員会」の活動の効果もあったと説明している。
成長を引っ張るのはイメージングだ。ネットワークカメラ他は売上が前期比20.1%増え、カメラ本体より速い。半導体露光装置では、AI向けの需要が高水準を保った。
一方、最大事業のプリンティングは減収減益だった。欧米でオフィス複合機の台数が減り、レーザープリンターは欧州や中国で市場縮小が続いた。それでも売上の53.8%を占める。
課題指摘では「最大事業のプリンティングが減収減益のなか、どう守りながら次へ移るか」を論点にできる。自分の貢献を話す入口にもなる。
1-3. 純利益2.08倍は「V字回復」——ただし実力の増益も混じる
前期は、メディカル事業の買収にかかったのれんを減損した。その結果、純利益は1,600億円まで落ち込んでいた。第125期の3,321億円は、この反動が大きい。
ただし有報は「減損を除いた前期と比べても増益」と明記している。営業費用は8.4%減の1兆7,066億円だった。理由は海外の構造改革の効果と経費管理だ。
売上が2.5%増にとどまる中、営業利益は62.8%増えた。営業利益率は9.8%まで上がったが、目標の12%にはまだ届かない。
「2倍は減損の反動が大きいが、減損を除いても増益だ」と区別して話すと、数字を読めている学生として扱われる。逆質問では「営業利益率9.8%から12%へ、最も効く改革はどれか」と聞ける。
1-4. 働く側の事実——従業員の6割超がプリンティング、売上の9.6%は1社向け
従業員は16万5,547人いる。このうち64.0%にあたる10万5,938人がプリンティングで働く。イメージとは逆に、実態は複合機・プリンターの会社だ。
もう1つ、有報にしか書いていない事実がある。レーザープリンターのHP Inc.向けOEMが、連結売上の9.6%を占める。OEMとは、相手先のブランドで製品を作って納めることだ。単一の顧客に売上の1割近くを頼っている。
配属や職種の話で「社員の6割超が働くプリンティングの変革に関わりたい」と言える。逆質問では「HP向けの供給が売上の9.6%を占めるが、依存を減らす取り組みはあるか」と聞ける。
第2章 精密機器・事務機業界の収益構造
2-1. 本体で稼がず消耗品で稼ぐ——それでも市場は縮む
プリンター・複合機の儲けは、機器を売った後にある。本体を安く売って設置台数を増やし、トナー、インク、保守契約で長く回収する。いわば「替刃モデル」だ。景気が悪くても、印刷が続く限り収益が入る。
一方、印刷そのものは減っている。ペーパーレス、リモートワーク、電子契約が背景だ。第125期もレーザープリンターは欧州と中国で市場縮小が続き、オフィス複合機は欧米で投資の先送りがあった。だから各社は、印刷で稼げるうちに次の柱を育てようとしている。
「事務機は斜陽」で終わらせず、安定収益と市場縮小の両面を語れる。志望動機の前提として使える。
2-2. 光学という一本の幹——研究開発費は売上の7.3%
キヤノンの多角化は、飛び地の買収ではない。カメラで磨いたレンズ・センサー・画像処理の技術から、レーザープリンター、半導体露光装置、ネットワークカメラ、医療画像診断へと広げてきた。有報も、蓄積した技術を全社で使い回す仕組みを成長の源泉に挙げている。
研究開発費は年3,393億円で、売上比は7.3%だ。
志望動機で「技術力が強み」と言うだけでは弱い。「年3,393億円の研究開発を、光学という共通の技術で4事業に使い回せる点に惹かれた」と言えると具体的になる。
2-3. 富士フイルムとの比較——出口の数と、育ち方の差
富士フイルムHDは、写真フィルムの危機をヘルスケアなどへの転換で乗り越えた。旧富士ゼロックスの事務機も抱えており、「縮む事務機と伸びるヘルスケア」という構図はキヤノンと同じだ。
違いは進み具合だ。富士フイルムはヘルスケアがすでに最大セグメントに育った。キヤノンのメディカルは、売上の12.5%、税引前の利益率は5.9%でまだ途上にある。一方、半導体露光装置・ネットワークカメラ・医療の3方向に出口を持つのはキヤノンだけだ。
課題指摘では「出口の数は多いが、メディカルの育ちはこれから」と整理できる。逆質問では「富士フイルムのヘルスケアに比べ、メディカルを育てるうえで何が鍵か」と聞ける。
キヤノンの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(プリンティング依存53.8%——縮む市場が最大の稼ぎ頭という矛盾/メディカルの誤算——6,655億円の買収と1,651億円の減損/米国関税と単一顧客リスク——売上の3割が米国、1割弱がHP/ROE 9.7%と「買い戻しの限界」——資本効率の宿題)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。売上4兆6,247億円(2期連続過去最高・5期連続増収)、純利益3,321億円(前期比2.08倍、ただし前期に1,651億円の減損)、プリンティング依存53.8%、ROE 9.7%——キヤノンの強さと宿題を数字で確認しました。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 精密機器・事務機業界の構造的課題——プリンティング依存53.8%——縮む市場が最大の稼ぎ頭という矛盾/メディカルの誤算——6,655億円の買収と1,651億円の減損/米国関税と単一顧客リスク——売上の3割が米国、1割弱がHP/ROE 9.7%と「買い戻しの限界」——資本効率の宿題
- 第3.5章 面接前に押さえるキヤノンの最新ニュース10本——中間決算・フェーズⅦの2030年目標・自己株式34%まで
- 第4章 内定者の正体——「カメラが好きだから」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収882万円の読み方と、連結16.6万人・単体2.3万人でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——勤続18.9年の読み方、女性管理職比率4.6%の他社比較、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——IRで差をつける志望動機3つの型・課題回答2パターン・逆質問7本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生