高島屋(8233)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、高島屋を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「経常黒字が最終赤字に」です。
有報の数字(第160期)
- 売上高
- 4,020億円
- 純利益
- -82億円
- ROE
- -1.8%
- 従業員数(連結)
- 6,518人
- 従業員数(単体)
- 3,463人
- 平均年間給与(単体)
- 792万円
- 平均年齢
- 49.3歳
- 平均勤続年数
- 25.3年
出典:高島屋の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
高島屋を受ける就活生は必ず読んでほしい。また、高島屋に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたは高島屋の面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、株式会社髙島屋 有価証券報告書 第160期(2025年3月1日〜2026年2月28日)に基づきます。
結論:高島屋は、百貨店の外に3つの成長の柱を立て、2031年度に各領域で事業利益100億円規模を狙う会社だ。
知っておきたいことは3つある。
2025年度(2026年2月期)は、最終損益が81億円の赤字だった。ただし本業の利益(経常利益)は黒字だ。主因は、転換社債の償還損720億円という一度きりの損失である。
金融事業では、すでに2社を買収している。会社はその狙いを、人材の確保と事業ノウハウの獲得と書いている。
国内百貨店は利益の44.5%を稼ぐ最大の柱だ。だが1人あたりの利益は、報告セグメントの中で最も低い。
この記事で確かめるのは、高島屋が何に賭け、その賭けが決算と働く環境にどう表れているかだ。
第1章 高島屋は何に賭けているのか
1-1. 有報が明かす「3つの賭け」——2031年度に各100億円
有価証券報告書(有報)は、会社が法律に基づいて出す公式の報告書だ。その「経営環境及び対処すべき課題」に、会社が何に賭けているかが書かれている。
現在の中期経営計画(会社が自分で決めた3年間の目標)は、2024〜2026年度である。成長の柱は「次世代型SC(ショッピングセンター)」「海外事業(ベトナム)」「金融事業」の3つだ。
当期の利益は、国内商業開発業(次世代型SCの中核)が65億円、海外商業開発業(ベトナム)が58億円、金融業が55億円。各100億円規模には、5〜8割の増益が要る。
金融は、カード、ライフパートナー(保険等)、投融資(法人向け金融)の3事業で進める。個人の資産管理から法人の資金需要までを担う、総合金融プラットフォームが目標だ。
ベトナムでは、ハノイの複合開発と、ホーチミンのサイゴンセンターの増床が本格化する。次世代型SCでは、玉川髙島屋S.C.が2027年度のグランドオープンを目指す。一方、洛西店は8月3日で現在の形での営業を終える。
2026年2月には、中小企業の伝統や技術を守る「百年のれんプロジェクト」も発足した。
志望動機では、3領域のどこに関わりたいかを語る。逆質問では、各100億円までの差をどの施策で埋める計画か、と聞ける。
1-2. 金融事業は、人とノウハウごと買っている
有報の「経営者による分析」には、すでに実行したことが書かれている。多くの就活生が読まない箇所だ。
金融では、法人融資を始めた。さらにIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー。個人の資産管理を担う)に強いヴァスト・キュルチュールを子会社化した。2025年9月には、法人向け金融のクレイリッシュの過半数の株式を取得している。同社は、髙島屋クレイキャピタルに社名を変えた。
会社はその狙いを、こう書く。
「これらのM&Aを通じて、経営人材・専門人材の確保や事業ノウハウの獲得も進めております」
買ったのは事業ではなく、人とノウハウだ。金融の専門人材を一人ずつ採っていては、2031年度に間に合わない。機能ごと買うほうが速い、という判断だと読める。
2社は隣接する領域で、買収先を自社の看板に統合している。会社が説明しているわけではないが、同じ領域で買い足していく型と読むのが自然だ。外商顧客への営業を通じて金融サービスを提供する構想も、有報に書かれている。
志望動機では、買収で専門人材を取り込む会社で自分は何を担うか、を語る。逆質問では、百貨店の顧客基盤と買収先をどうつなぐか、と聞ける。
1-3. いまは投資期、2027年度から回収期
有報は、現在の中期経営計画を「投資が先行するフェーズ」と位置付ける。2027年度以降は、投資の成果を収益として回収するフェーズへ移る見通しだ。28卒が入社する2028年度は、その只中にあたる。
会社は、事業別、グループ会社別、店舗別に、投じた資本に対する利益を測っている。入社後は、自分の売場の数字が資本の使い方という物差しで見られる会社だ。
志望動機では、回収期に入る時期に貢献したい、と結べる。逆質問では、2027年度以降の回収を現場がどの指標で追うのか、と聞ける。
1-4. 最終赤字81億円の正体——本業は黒字
転換社債とは、一定の条件で株式に転換できる社債だ。投資家は、利息を受け取るか、株式に転換して値上がり益を得るかを選べる。
高島屋は当期、この社債を償還(返済)した。特別損失(一度きりの損失)として、720億円を計上している。
株価が上がるほど、株式に転換できる権利の価値は高くなる。その状態で償還すると、帳簿上の価額との差が損失になる。株価の上昇が、損失の一因になったわけだ。この損失で、事業の現金が大きく出ていったわけではない。
直近は、普通社債の発行枠も決議した。資金調達を転換社債から普通社債へ切り替えたと読める。
ROEとは、株主のお金に対してどれだけ利益が出たかを示す指標だ。会社は中期経営計画で、ROE 8.3%を目標に置いた。当期の実績は△1.8%である。
ただし原因は、一過性の損失だ。資産の使い方や資金の集め方は、前期と大きく変わっていない。利益が戻れば、目標圏に戻りうると読める。
課題指摘では、ROEの低下は体質の悪化ではなく一過性の損失が主因だ、と整理して語る。逆質問では、ROE 8.3%をいつ達成する見通しか、と聞ける。
1-5. 働く側の事実——臨時が正社員を上回る
提出会社(髙島屋単体)の従業員は3,463名。平均年齢は49.3歳、平均勤続は25.3年、平均年収は792万円だ。労働組合はUAゼンセンに加盟している。
連結の従業員6,518名に対し、臨時従業員は7,364名。臨時の従業員が、正社員を上回っている。売場には人が必要だからだ。
課題指摘では、長く勤める先輩と臨時の方が多い売場で、若手が果たす役割を考えて語る。逆質問では、臨時の方も含む売場を、若手がどうまとめるのか、と聞ける。
第2章 百貨店業の収益構造
2-1. 海外197名が、国内3,541名の4.2倍を稼ぐ
国内百貨店業は、従業員3,541名で1人あたり利益が702万円。海外商業開発業は、197名で2,967万円。1人あたりで4.2倍の差がある。
商業開発業は不動産の開発・賃貸が中心で、人手がかからない。高島屋は、シンガポール、ベトナム、上海、タイに展開している。海外の2事業(百貨店と商業開発)で、全体の利益の25.7%を稼ぐ。
志望動機では、日本の百貨店でありながら海外で稼ぐ点に触れる。逆質問では、少人数で回る海外事業に国内から関われる機会はあるか、と聞ける。
2-2. 国内百貨店業——最大の稼ぎ頭だが、利益率は低い
国内百貨店業は、利益で最大の稼ぎ頭だ。だが利益率は7.72%と低い。当期は、利益が12.9%減った。報告セグメントの中で最大の落ち込みである。
背景には、百貨店のコスト構造がある。建物の減価償却費、不動産の賃借料、人件費は、売上が減ってもすぐには減らない。当期は、この3つの費目がいずれも増えた。
全体では、商品の売上が減り、不動産賃貸やテナント手数料などの収入が伸びた。モノを売る商売から、場所を貸す商売へ比重が移りつつある。
直近の2027年2月期第1四半期は、インバウンド需要の増加と国内顧客の堅調により、好調に転じている。
課題指摘では、固定費の重さが売上減を利益減に増幅する構造を指摘し、売場の生産性向上で貢献したい、と結ぶ。逆質問では、固定費を抑える施策は何か、と聞ける。
2-3. 同業比較——国内で稼ぐ三越伊勢丹、海外に活路を求める高島屋
同じ百貨店の三越伊勢丹ホールディングスと比べると、収益性は三越伊勢丹が上だ。財務も同じで、自己資本比率(返さなくてよい資金が資産に占める割合)は三越伊勢丹の50.8%に対し、高島屋は33.4%である。
一方、海外では高島屋が先行している。国内で稼ぐ三越伊勢丹に対し、高島屋は海外と新領域に活路を求める。同じ百貨店でも、戦略が違う。
志望動機では、同業との違いとして海外と新領域への軸足を語る。逆質問では、財務の余力が小さいなかで、投資と株主還元をどう両立するか、と聞ける。
高島屋の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(国内百貨店業の落ち込み/海外への依存と、その資産規模/会社が自分で挙げた「危ないところ」——有報の事業等のリスク/2027年2月期は好スタート——1Qで経常+43.3%)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。経常利益568億円の黒字が、転換社債償還損720億円という一行で最終赤字81億円になった——しかし営業CFは538億円のプラスで、会計上の損失と事業の実力は別物でした。事業別では海外商業開発業がわずか197名で1人あたり2,967万円と、国内百貨店業702万円の4.2倍。会社は2031年度に国内商業開発・海外商業開発・金融の3領域で各100億円を掲げ、金融事業はM&Aで「人ごと」買って伸ばしています。そして有報は「現中期経営計画は投資が先行するフェーズ、2027年度以降は回収フェーズへ移行する見通し」と明記——28卒が入るのは、その只中です。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 百貨店業の構造的課題——国内百貨店業の落ち込み/海外への依存と、その資産規模/会社が自分で挙げた「危ないところ」——有報の事業等のリスク/2027年2月期は好スタート——1Qで経常+43.3%
- 第3.5章 面接前に押さえる高島屋の最新ニュース10本——転換社債720億円・海外1人2,967万円・2031年度に各100億円・回収フェーズまで
- 第4章 内定者の正体——「百貨店が好き」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収792万円の読み方と、6,518名でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——勤続25.3年、UAゼンセン、臨時が正社員を上回る意味
- 第7章 面接攻略——IRで差をつける志望動機3つの型・課題回答2パターン・逆質問9本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生