日本取引所(8697)の企業研究——有価証券報告書で読む

このページは、日本取引所を受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「市場そのものを運営する」です。

有報の数字(第25期)

売上高
1,987億円
純利益
791億円
ROE
23.1%
従業員数(連結)
1,268人
従業員数(単体)
223人
平均年間給与(単体)
1,113万円
平均年齢
46.8歳
平均勤続年数
19.8年

出典:日本取引所の有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。

はじめに

日本取引所グループを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、東京証券取引所に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはJPXの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。

※本記事の数値は、株式会社日本取引所グループ 有価証券報告書 第25期(2025年4月1日〜2026年3月31日、IFRS)に基づきます。

結論から言う。JPXは、少人数で日本の株式市場を運営し、取引の増加を大きな利益に変える会社だ。ただし、その利益は相場の活況に左右される。

知っておきたいことは3つある。

会社が自分で決めた財務目標は「3期連続ROE 20.0%以上」の1つだけだ。ROEは、株主から預かったお金でどれだけ利益を出したかを示す比率である。当期は23.1%だった。

会社は「日本株市場の新時代」「総合プラットフォーム化」「デジタルイノベーション」の3つに賭けている。期間は2025〜2027年度だ。

収益の6割超は、株などの売買の多さに連動する。当期は営業収益が22.5%伸びたが、日本株市場の活況によるところが大きい。

この記事では、会社の目標、賭け、収益構造を確かめ、面接で語れる論点にする。

第1章 JPXは何に賭けているのか

1-1. 財務目標は「3期連続ROE 20.0%以上」ただ一つ

有価証券報告書(会社が法律に基づいて出す年次報告書。以下「有報」)には、「中期経営計画2027」の目標が書かれている。中期経営計画とは、会社が3年ほど先までの目標を示した計画のことだ。

財務目標は、売上でも利益額でもなく、ROEの1行だけである。「3期連続」とは、単年ではなく3年続けて超えるという意味だ。当期は23.1%で、すでに目標を上回っている。

数字以外の約束もある。「人的資本への継続的な投資を通じた人材力の向上」と「基幹システムの安定的な提供とレジリエンスの発揮」だ。レジリエンスとは、止まっても立ち直る力を指す。

面接での使い方

逆質問に使える。「目標をすでに超えているなか、次に重視する指標は何か」と聞ける。

1-2. 3つの賭け——株式だけの会社から総合プラットフォームへ

長期ビジョン「Target 2030」は、2030年までに「グローバルな総合金融・情報プラットフォーム」へ進化することを掲げる。2025〜2027年度の中期経営計画は、その第Ⅱステージだ。

3つの賭けは次のとおりだ。

・日本株市場の新時代:プライム市場での英文開示の義務化など、市場のルール自体を変える。
・総合プラットフォーム化:通貨先物、金、電力の先物など、株式以外の商品を増やす。先物とは、将来の売買をあらかじめ約束する取引だ。
・デジタルイノベーション:取引の場だけでなく、そこで生まれるデータを売る。AI開示情報検索サービス「J-LENS」(β版)もリリースした。

面接での使い方

志望動機に使える。3つのうち自分が関わりたい賭けを1つ選び、その理由を語る。

1-3. 1,268人で営業収益1,987億円——少人数で稼ぐ構造

連結従業員は1,268人だ。この人数で営業収益1,987億円を上げ、純利益は791億円。1人あたり約6,240万円になる。

当期は収益が22.5%伸びたのに、費用の増加は11.4%にとどまった。取引が増えても、システムはそのまま使えるからだ。

その結果、営業利益は29.0%増えた。営業利益率は58.5%で、収益のうち本業のもうけとして残る割合を示す。

利益の返し方も大きい。配当と自己株式の取得(会社が自社株を買い戻して株主に返す方法)の合計は766億円で、純利益の96.8%にあたる。

有報が最大の経営課題に挙げるのは、成長ではなく「常に安定的に市場インフラを提供すること」だ。少人数で、止められない市場を運営している。

面接での使い方

課題指摘に使える。「止められない市場を少人数で担うため、システムの安定が最重要だ」と述べ、自分がどう貢献できるかにつなげる。

1-4. 28卒が入社するのは中期経営計画の終了直後

当期(2025年度)は、中期経営計画2027の1年目だ。28卒の入社は2028年4月で、計画が終わった直後にあたる。入社時には「3期連続ROE 20.0%以上」の答えが出ている。

そこから先は、Target 2030の仕上げの時期だ。2030年、あなたは入社3年目になる。

追い風もある。有報は、政府の資産運用立国や2024年開始の新NISAを受けて、果たすべき役割は「これまで以上に高まってきております」と書く。

面接での使い方

逆質問に使える。「次の中期経営計画づくりに、若手が関わる場面はあるか」と聞ける。

第2章 証券取引所ビジネスの収益構造

2-1. 収益の6割超は「売買の多さ」で決まる

営業収益は6つに分かれる。最大は取引関連収益の773億円だ。株式やデリバティブ(株式などから派生した取引)の売買に応じた取引料が中心である。

次に大きいのが清算関連収益の542億円で、伸び率は57.5%と最大だった。清算とは、取引が成立した後に、決済されることを保証する業務だ。

この2つで、収益の6割超を占める。株価そのものではなく、売り買いされた金額である売買代金が、この会社の利益を左右する。

面接での使い方

課題指摘に使える。「収益が売買代金に連動するため、相場に左右されにくい収益をどう増やすかが課題だ」と述べ、1-2の賭けにつなげる。

2-2. 相場に左右されにくい収益——上場料と指数

上場関連収益186億円の中心は、年間上場料の140億円だ。上場企業約3,900社が、時価総額に応じて毎年払う「場所代」である。上場企業の数と時価総額が保たれる限り、安定して入る。

情報関連収益は336億円だ。株価情報の配信料に加え、TOPIX(東証の株価指数)の利用料が含まれる。ETF(指数に連動する上場投資信託)などが指数を使うときに、利用料が発生する。

面接での使い方

志望動機に使える。「市場の活況に頼らない収益の柱を育てる仕事に関わりたい」と語れる。

2-3. 海外取引所との違い——情報事業の比率

情報関連収益336億円は、営業収益の16.9%にとどまる。JPXは取引関連収益への依存度が高い。

海外の取引所は、M&Aで事業を広げてきた。ロンドン証券取引所グループ(LSEG)は、データ分析大手のリフィニティブを買収し、収益の大半を情報・データ事業から得ている。「取引所」から「金融データ企業」への転換が、世界の流れだ。

面接での使い方

逆質問に使える。「情報関連収益の比率を高める目標はあるか」と聞けば、1-2の「データを売る」賭けの進み具合を確かめられる。

日本取引所の構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(市況依存という宿命——株が売買されなければ収益は減る/システム障害という最大のリスク/上場企業の質と数——市場の魅力をどう保つか/グローバル競争と成長の限界)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。

ここまでが無料パートです。営業収益1,987億円(+22.5%)、純利益791億円(+29.5%)、ROE 23.1%、従業員わずか1,268人、収益の6割超が売買代金に連動する構造——JPXの特異な事業モデルを数字で確認しました。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。

  • 第3章 証券取引所ビジネスの構造的課題——市況依存という宿命——株が売買されなければ収益は減る/システム障害という最大のリスク/上場企業の質と数——市場の魅力をどう保つか/グローバル競争と成長の限界
  • 第3.5章 面接前に押さえるJPXの最新ニュース10本——清算+57.5%・コロケーション+9.9%・中計2027まで
  • 第4章 内定者の正体——「市場を支えたい」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
  • 第5章 職種別キャリア分析——平均年収1,113万円の読み方と、連結1,268人でのキャリア
  • 第6章 働く環境の現実——女性役員比率23.5%の他社比較、勤続19.8年の意味、財務から見る雇用の安定性
  • 第7章 面接攻略——IRで差をつける志望動機3つの型・課題回答2パターン・逆質問7本
  • 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生

よくある質問

Q. 日本取引所の平均年収はいくらですか。
A. 有価証券報告書(第25期)の「従業員の状況」によると、提出会社(単体)の平均年間給与は1,113万円です。連結の子会社や職種別の水準とは異なります。
Q. 日本取引所の従業員数は何人ですか。
A. 有価証券報告書(第25期)では、提出会社(単体)が223人、連結が1,268人です。新卒で入るのが本体か子会社かで、この数字の意味は変わります。
Q. このページの数字の出典は何ですか。
A. 日本取引所が金融庁に提出した有価証券報告書と決算短信です。EDINETで誰でも無料で原文を確認できます。
Q. 有料のnote記事では何が読めますか。
A. 業界の構造的課題、面接前に押さえる最新ニュース、内定者の選考と面接攻略、職種別キャリアと年収、IRを使った回答例と逆質問です(買い切り1,480円)。