MS&AD(8725)の企業研究——有価証券報告書で読む
このページは、MS&ADを受ける28卒の就活生に向けたものです。会社が有価証券報告書に書いた数字を、企業研究と面接で使える形に並べます。直近の有報から出てきた事実は、「2027年に2社が合併」です。
有報の数字(第18期)
- 売上高
- 7兆6,530億円
- 純利益
- 7,873億円
- ROE
- 18.0%
- 従業員数(連結)
- 46,856人
- 従業員数(単体)
- 478人
- 平均年間給与(単体)
- 1,238万円
- 平均年齢
- 47.2歳
- 平均勤続年数
- 21.7年
出典:MS&ADの有価証券報告書「主要な経営指標等の推移」「従業員の状況」。平均年間給与・平均年齢・勤続年数は提出会社(単体)の値。
はじめに
MS&ADインシュアランスグループを受ける就活生は必ず読んでほしい。また、三井住友海上やあいおいニッセイ同和損保に勤める若手社員、中間管理職の方にも読んでほしい。自社の有価証券報告書を通しで読んだことがある社員は、ほとんどいない。この記事を最後まで理解できれば、あなたはMS&ADの面接官より、この会社の論点を整理して語れるようになる。
※本記事の数値は、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 有価証券報告書 第18期(2025年4月1日〜2026年3月31日、IFRS)に基づきます。
結論:MS&ADは、2027年4月の2社合併を軸に、2030年度の利益拡大を狙う会社だ。
知っておきたいことは3つある。
合併は検討ではなく決定済みだ。三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保が2027年4月1日に1社になる。28卒の入社は2028年4月で、合併の1年後にあたる。
今期(2026年3月期)の当期利益は5,106億円で、前期より70.1%増えた。ただし災害が少なかったことと、保険料の引き上げが大きく効いている。
会社は2030年度に修正利益8,000億円を掲げる。利益の主役は、すでに海外だ。
この記事では、合併の中身、会社の目標、今期の増益の理由、損保の稼ぎ方を順に確かめる。
第1章 MS&ADは何に賭けているのか
1-1. 賭けの中心は合併だ——28卒が入るのは新会社の2年目
有価証券報告書(会社が国に出す年次報告書)には、合併は「最終合意」「合併契約を締結」と書かれている。効力発生日は2027年4月1日だ。
2社の従業員は、三井住友海上が12,731人、あいおいニッセイ同和損保が12,515人。合計25,246人で、連結従業員46,856人の53.9%にあたる。
狙いは、新たな損害保険会社をつくり、成長の土台とガバナンス(経営を律する仕組み)を固めることだ。一方で会社は、合併や業務変革、システム開発に伴う業務の混乱もリスクとして挙げている。28卒が入る2028年4月は、システムや拠点の統合が進む最中になる。
志望動機で「統合の途中に入社し、新会社づくりに関わりたい」と語る根拠になる。逆質問では「統合で最初に変わる業務は何か」と聞ける。
1-2. 会社が自分で決めた目標——2030年度に修正利益8,000億円
会社は経営指標を、目標値とセットで公表している。中心は2つだ。
修正利益:2030年度に8,000億円(2026年度目標は5,300億円)
修正ROE:2030年度に11%以上(2026年度目標は10%)
修正利益とは、株の売却益などの一時的な要因を除いた、本業の利益のことだ。修正ROEは、事業に実際に使っている資本に対して、どれだけ稼いだかを示す比率である。
どちらも「除く政策株式売却損益」と明記されている。株を売って利益を膨らませても、目標には数えない設計だ。
目標を支える策は2つある。海外では米国のW.R. Berkleyに出資し、豪州のChallengerの株式は売却した。資産運用では「グローバルトップティア水準」の利益成長を掲げる。
志望動機に「利益8,000億円という目標に、海外か運用で貢献したい」と書ける。逆質問では「2026年度の5,300億円は計画どおり進んでいるか」と聞ける。
1-3. 信頼回復から始まった当期——不祥事が制度とガバナンスを変えた
三井住友海上とあいおいニッセイ同和損保には、企業保険での保険料調整行為や、保険会社間の情報漏えい行為があった。会社はその反省を踏まえ、再発防止とビジネスモデルの変革を進めたと書いている。
業界の不祥事は法律の改正につながり、改正保険業法が2026年6月に施行された。会社は「顧客本位の業務運営」と「健全な競争環境」を最優先に置く。
社内も変わった。2025年6月に監査等委員会設置会社(取締役会の監督を強める仕組み)へ移り、取締役の過半数を社外取締役にした。三井住友海上は、銀泉とSMBCグループの持株会社と、保険代理店事業会社を2026年4月1日付で共同設立することにも合意している。
課題指摘で「信頼回復が競争の前提になる」と述べられる。逆質問では「不祥事の後、現場の営業のやり方で変わった点は何か」と聞ける。
1-4. 今期は当期利益5,106億円——ただし追い風の年だ
今期の当期利益は5,106億円で、前期比+70.1%だった。ROE(株主から預かったお金で稼いだ利益の割合)は、前期の5.33%から8.65%に上がった。会社の目標である修正ROEとは定義が違うため、11%以上という目標とは単純に比べられない。
増益の要因は3つある。国内外で自然災害による保険金の支払いが減ったこと。インフレを踏まえた保険料の引き上げが浸透したこと。海外の米州・欧州で収益が伸びたことだ。災害が少なかった年だったので、大型台風が続けば利益は縮む。
利益の源泉は海外に移っている。海外子会社・関連会社の利益は2,344億円で、国内2社のどちらも上回った。
課題指摘で「好決算は追い風が大きく、災害が増えた年でも稼げる体制が課題だ」と言える。逆質問では「海外が利益の主役になる中、国内が担う役割は何か」と聞ける。
1-5. 働く側の事実——4.7万人、うち海外が2割
連結従業員は46,856人。国内損保2社で25,246人、海外が10,297人で全体の22.0%を占める。持株会社(グループ全体を束ねる本社)は478人しかいない。
持株会社の従業員の平均年齢は47.2歳、勤続は21.7年、平均年間給与は1,237万円だ。これは持株会社478人の数字であり、損保2社の社員の数字ではない。女性役員比率は30.8%である。
志望動機では「海外が2割を占める会社で働きたい」と語れる。逆質問では「入社後に海外事業へ関われる機会はあるか」と聞ける。
第2章 損害保険業の収益構造
2-1. 損保の利益は災害と値付けで決まる
損保は、事故や災害が起きる確率を予測して保険料を決める。予測より災害が少なければ利益、多ければ損失になる。
今期の保険サービス損益(保険の本業の損益)は5,254億円で、前期より1,970億円増えた。背景は、自然災害による保険金の減少と保険料の改定だ。2018年の西日本豪雨や2019年の台風15号・19号のような年は、損保各社の利益が吹き飛んだ。
インフレで修理費や部品代が上がれば、保険金の支払いは増える。それを保険料に転嫁できるかが、各社の力の差になる。MS&ADは料率を改定し、自動車保険と火災保険で増収した。
「天候に左右される事業を、値付けでどう安定させるか」を論点として語れる。逆質問では「料率改定で顧客が離れないための工夫は何か」と聞ける。
2-2. 海外で稼ぐ3つの型——出資・ロイズ・MGA
海外事業は3つの型で成り立つ。
第1に、現地の保険会社への出資だ。米W.R. Berkleyへの出資は、特殊なリスクを扱う保険(スペシャルティ保険)の技術を取り込む狙いがある。第2に、ロンドンのロイズ市場での再保険事業。再保険とは、保険会社が引き受けたリスクの一部を、別の会社に引き受けてもらう仕組みだ。第3に、MGA(保険会社から引受の権限を預かった専門代理店)市場の開拓で、MS Transverseが担う。
日本は少子高齢化で市場が縮む。一方で、気候変動、AI、サイバーなど新しいリスクは増える。会社は、従来の保険の枠にとらわれない変革が要ると認識している。
志望動機で「海外の特殊なリスクを引き受ける仕事に関わりたい」と具体的に語れる。逆質問では「出資先との協業で、すでに形になった例はあるか」と聞ける。
2-3. 3メガ損保の中での立ち位置——再編のMS&AD
東京海上は収益力が突出し、SOMPOは介護など異業種を抱える。MS&ADは国内に2社を持つ独特の構造だったが、いま合併でそれを解消しようとしている。「収益力の東京海上、多角化のSOMPO、再編のMS&AD」が、この3社の見取り図だ。
合併後の新会社は、保険収益が3兆3,798億円規模になる。国内損保のトップを争う存在だ。
「他の2社でなくMS&ADを選ぶ理由」を、再編の当事者として働ける点で語れる。逆質問では「合併後、国内トップを争うために最初に打つ手は何か」と聞ける。
MS&ADの構造的課題と追い風は、4つに分けて第3章で扱う(保険料調整行為という業界の傷/合併という巨大プロジェクトのリスク/自然災害の激甚化——予測が効かない時代/国内市場の縮小と新しいリスク)。ここから先は有料パートで、第7章の課題回答に直結させる。
ここまでが無料パートです。当期利益5,106億円(+70.1%)、保険サービス損益5,254億円(+60.0%)、海外の利益2,344億円が国内2社を上回る構造、そして2027年4月の三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保の合併——MS&ADの構造を数字で確認しました。ここから先は、この構造を選考で使える武器に変える有料パートです。
有料記事で読めること
- 第3章 損害保険業の構造的課題——保険料調整行為という業界の傷/合併という巨大プロジェクトのリスク/自然災害の激甚化——予測が効かない時代/国内市場の縮小と新しいリスク
- 第3.5章 面接前に押さえるMS&ADの最新ニュース10本——2社合併・W.R.Berkley出資・監査等委員会移行まで
- 第4章 内定者の正体——「合併を知らない」で落ちる理由、ES・面接の攻略、不合格パターン
- 第5章 職種別キャリア分析——平均年収1,237万円の読み方と、連結4.7万人でのキャリア
- 第6章 働く環境の現実——女性役員比率30.8%の他社比較、合併後の働き方、財務から見る雇用の安定性
- 第7章 面接攻略——IRで差をつける志望動機3つの型・課題回答2パターン・逆質問7本
- 第8章 総合評価——推奨できる就活生と、慎重に検討すべき就活生